2015年ごろから広がりをみせたRPA(Robotic Process Automation)ですが、今では各業界で生産性向上のためのツールとして欠かせないものとなってきています。
そんなRPAツールは、2017年の初頭ごろより日本国内での導入が進み、現在では大手企業だけではなく、中堅企業や小売業においても導入が進み、RPA業界が盛り上がりを見せています。
この盛り上がりの背景には、長時間労働の抑制や働き方改革などをきっかけに急速なデジタル化が進む現代社会において、業務プロセスの効率化と生産性の向上を目指す必要性が高まっていることが挙げられます。
RPAは自動化という切り口で、これらのニーズに応えるための有力なツールとして注目されており、その結果RPAの導入や活用が急速に進んでいる状況です。
今回の記事では、そんな盛り上がりを見せるRPA業界について「どれぐらいの市場規模になってきているのか」や、「RPAの導入事例」について解説します。
これからRPAの導入を検討されている方に向けて、自社のニーズに合ったRPAの導入方法や活用戦略ポイントを見つけることが出来れば幸いです。
国内シェアが高いRPA製品なども解説していきますので、ぜひ最後までご一読ください。
日本国内におけるRPA業界の規模
では、さっそくですが国内におけるRPA業界の規模について解説をしていきます。
日本国内のRPA業界の市場規模は年々、早いペースで規模を拡大し続けています。
矢野経済研究所によると、2016年には85億円だった業界市場規模が、2019年度のには事業者売上高ベースで前年度比56.7%増の529億7,000万円、そのうちRPAツール製品は65.9%増の224億円、RPA関連サービスを50.6%増の305億7,000万円と拡大傾向となっています。
このタイミングで大手企業のRPA導入率は高い水準に達していますが、市場は引き続き急成長を遂げており、RPA業界の市場の勢いは止まらず成長を続けています。
2020年度の同業界規模は37.6%増の729億円、そのうちRPAツール製品は33.5%増の299億円、RPA関連サービスが40.7%増の430億円になると予測されています。
現在では大手企業だけではなく、中堅企業へのRPA導入などの影響もあり、2023年度には1,520億円まで成長することが見込まれています。
海外でも伸びているRPA業界
RPAは国内だけで盛り上がっている業界ではなく、同じく海外でも多くの企業に導入されており拡大をし続けています。
ガートナーによると、世界におけるRPAソフトウェアの売り上げが、2021年には前年比19.5%増の18.9億ドルに達するとの見通しを発表しました。
また、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックによる経済的な圧力にもかかわらず、RPA市場は2024年まで2桁の成長率で拡大すると予測されています。
このように日本国内だけではなく、海外でもRPAの業界地図は拡大を続けており、RPAがブームだった時代から本格的な利用拡大フェーズに移行しているといえます。
矢野経済研究所 | エレクトロニクス、環境、エネルギー等幅広い分野におけるクライアント企業に向けて市場調査サービスを提供しているマーケティング会社で、市場調査、調査分析からソリューション提供まで行っています |
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ガートナー | 数々の大手企業や政府機関を顧客にもち、世界2,000名以上の各分野の専門家による調査分析レポートと専門家への相談サービスを提供するリサーチ&アドバイザリなどのIT分野を中心とした調査・助言を行う企業。 |
RPA業界が急成長した理由
そんなRPAですが、なぜここまで急成長したのでしょうか。
その背景について、以下の3つを挙げて解説していきます。
1. 金融業界への導入
PRAは自動で「24時間365日休まずに稼働することができる」「同じ業務を同じ品質で繰り返し業務することができる」といった特性をもっています。
そんな特性に注目したのが、金融業界です。
金融業界では人の手で対応している事務業務の種類や量が多く、どうしてもヒューマンエラーが発生しやすいという課題がありました。
しかし、RPAはプログラムされた指示通り業務を自動実行するため、安定した品質で処理ができることや長時間実行していても疲れないこと、人間とは違い慣れなどからくるミスを発生させないことなど、金融業界が抱えていた課題に大変適したツールでした。
そういった状況から、金融業界ではRPAの導入が進み今までは着手できなかった戦略的なコア業務へ取り組みが行えるようになり市場競争力が高まりました。
そしてRPA導入していない企業は、同じく業務効率化を進めていかないと同じ土俵で戦えなくなってしまうため、同じくRPA導入を進めていくといった「相乗効果」でRPAは急速に成長しました。
2. ワークスタイルの変化
働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、人々のワークスタイルは急速に変化してきました。
ある企業では、基本的な出勤形態を「テレワーク」にしたり、ある企業では「フレックスタイム制」を導入したりなど、状況に合わせたワークスタイルを選択できるようになりました。
そんな中、注目されたのがRPAの自動化活用です。
RPAは実施したい業務をプログラムしておけば、出社せずとも決まった時間に業務を自動実行させることができます。
また、クラウド型の製品であればテレワーク環境下でも、管理画面用のWebサイトにアクセスすることで対応できるため、場所を選びません。
さらに、RPA製品を提供しているベンダーによっては手厚いサポートを準備しているところもあるため、自社のワークスタイルに合わせた利用が可能です。
こういった状況から、RPAは時勢にマッチしていたため活用が推進されました。
3. コア業務への注力
日本では以前から「労働人口の減少」が課題とされていました。
労働人口が減少するということは「企業内の各業務を担当できる人材がいなくなっていく」ということです。
そうすると、定型業務だけで1日の業務時間が終了してしまい、コア業務に対応する時間が捻出できず、市場での競争力が低下してしまいます。
そういった将来を迎えないために、業務生産性向上のツールとして注目されたのがRPAです。
RPAを活用すれば、誰でもできる定型業務や単純業務をRPAに置き換える事ができるため、空いたリソースをコア業務に充てることができます。
国内企業の現在のRPA導入率
株式会社MM総研が調査した「RPA国内利用動向調査2021(2021年1月調査)」によると、RPAの導入と活用は企業規模や業種問わず進んでいる状況で、年商50億円以上の企業での普及率は37%を超えており、大手に限れば活用率は過半数に達しています。
また、年商50億円未満の企業では、導入率が10%と低いもののRPAのブーム期が過ぎ、さまざまな導入に関する事例が蓄積されてきているため、今後数年で普及期を迎えると想定されています。
株式会社MM総研 | ICT業界を専門に多くの企業・メディアに、その幅広い情報収集をしたり、豊富な経験と知識を持つコンサルタントが課題解決につながる最適なソリューションの提案などを実施しているリサーチ・コンサルティング企業 |
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日本国内で勢いのある人気製品3選
それでは、次に日本国内でシェアの高いRPA製品についてご紹介します。
今回はMM総研発表の2020年1月の調査であった、導入シェアランキングの高いツールについて、3つ解説をします。
UiPath
UiPathは国内だけではなく、世界でも広く利用されているRPAツールで日本でのシェア拡大に重きをおいています。
そのため、自動化の開発ツールのみならず、リファレンスや学習用のeラーニングサイトなど日本語での対応が充実しており、自動化を活用しやすい環境が整っています。
特徴
UiPathの特徴としては、自動化をプログラムするときに選択できるアクティビティ(開発時に使用する部品)の種類が400以上存在しており、初心者でも開発しやすい環境が整っています。
また、SAPやSalesforceなどさまざまなシステムとの自動化連携が可能なため、幅広い環境への自動化を適用する事ができます。
提供形態
デスクトップ型/サーバー型/クラウド型
提供会社
UiPath株式会社
BizRobo!
BizRobo!は、導入実績2,600社超(2023年7月末時点)を誇る老舗のRPAツールです。
独自のライセンス形態を採用していて、1ライセンスで自動化ロボットを無制限につくることができるため、つくればつくるほどコストメリットを感じられる料金体系です。
特徴
BizRobo!はバックグラウンドで自動実行するのが特徴のRPAで、同じPCで人が別の業務をしながらロボットに単純業務を任せるといった活用が可能です。
また、一元管理ツールを使用することで複数のロボットを同時稼働させることができるため、稼働時間の大幅な効率化が実現できます。
UiPathと同様に今までの導入実績で得た開発技術や自動化関連の知見をナレッジとして展開していたり、学習用のeラーニングサポートを準備しているため、初心者でも活用しやすいツールです。
提供形態
デスクトップ型/サーバー型
提供会社
RPAテクノロジーズ株式会社
WinActor
WinActorはNTTグループの設備管理に関する業務改善を目的に開発された純国産のRPAツールです。
業務プロセスの自動化をなるべく簡単に実行できるよう設計されていることや、自動化シナリオの開発時に確認する説明文が日本語で記載されているため、初心者の方でも躓きにくく活用しやすいツールです。
現在では、やく6,000社の企業に導入されています。
特徴
WinActorは、自動化するための環境構築が不要で、パソコン1台からでも導入ができます。
また、Windowsで利用できる様々なアプリケーションに対応しているため、普段パソコンで実施している業務については、基本的に自動化することができます。
初心者でも使いやすい機能の一つとして、自動化したい業務を通常通り実行すれば、WinActor側が操作を記録しシナリオを作成してくれるため、自動化のシナリオ作成が容易に行えます。
提供形態
デスクトップ型
提供会社
エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
【業界別】RPAの導入活用事例を5つ紹介!
では、最後にRPAの導入事例について紹介をします。
自社の自動化業務の選定や、導入方法や活用戦略のアイデアになれば幸いです。
【金融業界】日本生命保険相互会社
業界大手である日本生命保険相互会社の事務部門では、年間を通して業務量の変動が大きく、時には臨時スタッフを募り、短期間で教育を実施し現場に配置するといった状況から現場の負担が大きな課題となっていました。
そんな課題を抱えるなか、人海戦術に頼らない手段を模索し「PC上での定型業務をソフトウエアでの自動実行に代替する手法」にいち早く着目しRPAを導入。
具体的な活用方法として、保険の申込情報が記載されたファイルからデータを転記し、社内システムに登録する業務などのバックオフィスの業務に対してRPAを適用しました。
その結果、49業務に対しロボットを導入し、1年あたり5万時間相当の効率化が実現しています。
また、定量的効果だけでなく、ロボットの活用によって繁忙期のピークが抑制され、繁閑の差を緩和できたそうです。
【不動産業界】アパマンショップ(Apaman Network株式会社)
全国に約1140店舗を展開している不動産賃貸仲介店「アパマンショップ」ですが、競争の激しい不動産業界で、日々業務改善に取り組んでおり、その中で目を付けたのが「顧客に紹介する賃貸物件情報の収集と登録業務」の効率化です。
一つの事例としては空き情報を含めた物件情報は事業者向けのB2Bサイトに登録されています。
そこから各店舗の担当が情報を確認し、自社の基幹システムに登録するといった流れでしたが、その登録業務に多くの時間がかかっていました。
そういった経緯からRPAを導入し、今まで全国の店舗で合算すると1万時間(一つの物件の登録に15分〜20分ぐらい)もかかっていた業務が、1/3の時間で対応できるようになりました。
導入効果として、各店舗から朝出社した段階で、新しい物件情報が登録されていて、すでに準備ができている状況のため、大幅な業務効率化に繋がっているとのことです。
【食品業界】サッポロビール株式会社
東京都渋谷区恵比寿に本社を構えるサッポロビール株式会社は、毎日もしくは毎週POSデータのダウンロードを実施する業務があり、事業所によっては毎日ビールや乙類焼酎など、20種類以上あるカテゴリーを1つずつダウンロースするという業務プロセスを人の手で実施していました。
その中で、ダウンロードするだけの単純業務を頻度高く実施しなければいけないというストレスや、取り扱う商品が増えた場合のダウンロード数の増加など、将来的にみて懸念点が多くありRPAの導入を決定。
RPA導入後の現在では、朝の8時ごろにWebサイトへアクセスして順次、POSデータのダウンロードを開始します。
そして、14時半頃には、全社、全カテゴリーのPOSデータを取り終えており、効果としては1年分の人件費に相当するコストが削減できました。
今後も、RPAを使用し別のPOSデータダウンロード作業への適用や、他の業務へ適用できないかなどを検討しRPA導入を加速していくとのことです。
【教育業界】立命館大学
関西を代表する私立総合大学である立命館大学は、少子化の現代において魅力ある学校運営を推し進め、競争力を保つための重要な課題として「業務効率化」に注力し、関連する各種システムの導入などが進められてきました。
その中でも、人手に頼らざるを得なかった単純ながらも大量で定期的に発生する定型業務の効率化に着手するべく導入したのがRPAでした。
適用した業務の事例として、支払い手続きをするための確定操作が1回あたり約3,000回のくり返し作業が必要だった業務に自動化を適用し、年間作業数の25万件の処理をRPAに置き換えることができました。
また、毎週1回・4時間かかっていたERP上のデータ調整業務にRPAを適用することで、業務は大幅に効率化されたそうです。
今後は、引き続き大学ならではの敵的に大量に発生する多種多様な定型業務にRPAを適用していくことや、OCR×RPAを実現し自動化の範囲を広げていくことで業務効率化を推し進め、職員が創造的な業務に注力できる環境の構築に繋げていくことを目標としています。
【医療業界】たにあい糖尿病・在宅クリニック
開業当初からDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極推進してきた秋田県の「たにあい糖尿病・在宅クリニック」は、コロナワクチン接種開始に伴う業務量増大への対応策として、定型業務を自動実行できるRPAを導入しました。
具体的な業務の事例としては診療にかかわる準備業務である「来院予定の外来患者の電子カルテ準備」などを含めた3業務に適用させています。
それぞれソフトウェアロボットが夜間にまとめて自動実行され、翌診療日の始業までに処理を終える体制でスケジュール稼働をしているそうです。
自動化の導入効果としては、1日あたり2時間の余剰時間を創出することができました。
また、活用結果として数値だけでみると大きな削減にはなってないようにも感じますが、当日の受診者数も予測しづらい現場であるため、スタッフの「対応の自由度」が増すことは数値以上の価値がある効果のため、引き続き活用し効果を高めていく予定です。
記事まとめ
今回は、RPA業界の市場規模や各業界で成功している導入の事例について解説をしました。
日本国内では、2017年の初頭ごろより浸透してきたRPAですが、ブーム期が去って本格的な活用普及フェーズが到来しています。
これから、様々な業界や企業でRPAの導入が推進されるが予想されます。
また、それに合わせてAIが搭載されたツールなど、消費者のニーズに答えた様々なRPA製品が登場することも予想されます。
そうなると、選ぶ側の選択肢が増えるため、RPA業界のことや導入方法、製品に対する知識などが必要になってきています。
今回の記事を見ていただき、自社のニーズに合ったRPAの導入方法や活用戦略を見つけることが出来れば幸いです。