2010年代より日本でも名前を聞くようになったRPAですが、その普及率や業務に対する効果は業界・業種によって様々です。
中でも銀行をはじめとした金融機関では、RPAの普及率は他の業界よりも比較的高い水準で推移しています。
本記事では、なぜ金融業界においてRPAの導入が進んでいるのか、その理由と実際の事例を踏まえて解説します。
なぜ金融業界とRPAの相性は良い?強みと交えて解説
そもそもRPAとは、ロボットによる業務自動化を指すものであり、作業手順をコンピューターに指示することで、ソフトウェアロボットが業務を代行します。
つまり、RPAの強みは定型化されているルーティンワークをミスなく、スピード感を持って処理することができる点にあります。
業務の自動化を可能とするRPAはなぜ金融業界とマッチしているのでしょうか。
その理由と導入が加速される背景を3つの観点から解説します。
ルーティンワークが多い
銀行をはじめとする金融機関では、日々膨大な業務が発生します。
銀行の窓口が15時で閉まることからも、その忙しさは想像に難くありません。
そんな金融業界の業務を細分化すると、ルーティンワークと呼ばれるものが非常に多いです。
具体的には、口座開設手続きや入出金のデータ入力、契約書類の作成及びデータ入力など、多岐に渡ります。
RPAの強みは多くのルーティンワークをこなせる点にあるため、自動化しやすい金融機関の業務とは相性が非常に良いと言えます。
人的ミスの削減が可能に
一般的に金融機関と呼ばれる業態では、毎日多額のお金のやり取りが行われます。
そんな中、入力ミスや確認のし忘れにより誤入金が発生してしまえば、取り返しのつかない事態に発展することもおかしくありません。
一例としてみずほ証券は、人的ミスが理由で起きた「ジェイコム株大量誤発注事件」において、約400億円の損失を被ったと言われています。
メガバンクや大手証券会社など、資本力のある金融機関であれば何とかなるかもしれませんが、地銀など規模の小さい金融機関だとそうはいきません。
一つの人的ミスで倒産の危機にまで陥る可能性も考えられるでしょう。
最適なシナリオを作成できた場合ミスを起こさず業務を自動化できるRPAは、ヒューマンエラーの削減に対して非常に有効的だと言えます。
コンプライアンスの強化にもつながる
どの業界でも言えることではありますが、個人情報等の流出は御法度にあたります。
特に金融機関では他の業界よりも多くの個人情報を取り扱う上、お金のやり取りが頻繁に行われるため、特に注意が必要であると言えます。
RPAを導入することは業務プロセスの一貫性や厳密な監視を可能とします。
すなわち、個人情報や企業の信用情報などのデータを作為的に入手しようとする者への情報漏洩を防ぐことに役立ちます。
したがって、RPAの導入によってコンプライアンス遵守が強化され、結果的に客観的な信用獲得にもつながります。
金融機関でRPAが導入された事例3選
具体的にどのような業務やケースにおいてRPAは活用されているのでしょうか。
広島銀行、ゆうちょ銀行、住信SBIネット銀行の3つの金融機関での事例をみていきましょう。
導入事例①:広島銀行
広島銀行は中国地方を代表する地方銀行です。
2017年に策定された「働き方改革プロジェクト」を推し進めており、生産性の向上と業務時間短縮を目的にRPAツールの導入がされています。
【効果】年間80時間にわたる業務時間の削減
広島銀行では、顧客が取引によって得たポイントに応じて各種サービスや特典が受けられる「トータルポイントサービス」を展開しています。
これまでは顧客との取引データの抽出及びサービスの登録・確認業務を手作業で本部オペレータが行なっておりました。
RPAツールを導入したことでこの作業のロボット化に成功、結果として年間80時間に業務時間削減につながりました。
導入事例②:ゆうちょ銀行
日本郵政グループの一員である株式会社ゆうちょ銀行は、全国に拠点を持つ金融機関です。
ゆうちょ銀行でも業務改革・生産性向上を目的としてRPAの導入により総合的な業務の自動化に取り組んでいます。
【効果】投資信託の口座開設にかかる業務時間を3分の1に短縮
ゆうちょ銀行では1日に数百人規模の投資信託の口座開設業務が発生しています。
この業務において、以下の流れで行員による作業が行われていました。
- 口座開設申込書のスキャン
- 口座開設申込書と顧客の口座情報の確認
- 修正及び再確認
- 投資信託システムへのデータ入力
上記の口座開設業務は目視による確認やシステムへのデータ入力は手作業で行われるなど、人的ミスを引き起こす課題がいくつか散見されていました。
新たに開発されたシステムでは、顧客から紙媒体で届く口座開設申込書をOCRを用いてスキャン、RPAツールで申込内容の確認や投資信託システムへのデータ入力を可能としました。
このシステムの導入によって、投資信託の口座開設にかかる業務時間を3分の1に短縮に成功し、業務改革・生産性の向上へと繋げました。
導入事例③:住信SBIネット銀行
住信SBIネット銀行は2007年に開業したネット専業の金融機関です。
住宅ローンに強みを持つ住信SBIネット銀行では、住宅ローンの審査関連業務に人的リソースを多く割いており、審査期間の短縮を目的としてRPAを導入しました。
【効果】1月あたり1,700時間の業務削減効果
住宅ローン業務においては、審査結果情報の取得から審査結果を顧客にメールで通知するまでの作業を1日あたり300件近く行なっておりました。
従来の手作業では1件につき15分程度かかっていたため、1日で計4,500分もの業務時間を要します。
上記の作業をRPAで運用を開始したことで、1件あたりの作業時間を2分程度に短縮し、1月あたり1,700時間にも及ぶ業務時間の短縮に成功しました。
さらに、各部署で独自にロボットを作成・変更ができないように、サーバー側でロボットの管理を制限しました。
RPAの運用を組織として足並みを揃えたことで、業務時間の短縮だけでなく作業のミス発生件数もゼロとなり、RPAの強みを最大限に発揮していると言えます。
導入前にチェックしておきたいポイント
ここまでは、金融機関におけるRPA導入のメリットと各金融機関の導入事例について解説しました。
RPA導入を検討する上で同じ業界の導入事例やRPA製品の精査を行うことは勿論ですが、その前段階として社内間で意思疎通を図っておくことはより重要であると言えます。
本章ではRPA導入の前にチェックしておきたいポイントを3つに分けて解説します。
導入する目的を明確にする
言うまでもないことですが、RPAの導入は目的ではなく手段です。
まずは社内で抱えている課題をリストアップし、その課題解消にRPAの導入という選択が最適解であるのか判断することが重要です。
もしRPAの導入によって業務の効率化や生産性の向上につながると判断できた場合は、予算と課題の優先順位を決定するフローに移りましょう。
業務の棚卸しでルーティンワークを洗い出す
RPAツールを導入することで、実践可能なことは多岐に渡ります。
RPAについて調べているうちに「こんなことも自動化できるの!?」と驚くこともあるかもしれません。
思いがけない業務も場合によってはRPAで自動化できる可能性がありますので、業務の棚卸しを行い、少しでも多くのルーティンワークを洗い出しておくことが重要です。
下記にRPAを導入することで解決できそうな課題簿具体例を挙げましたので参考にしてみてください。
【必見】解決可能な課題の具体例
課題 | 解消の可否 |
---|---|
手作業による時間の無駄削減 | ◯ |
データ入力ミスチェック | △ |
ビジネスプロセスの非効率性 | ◯ |
スケジュール調整の手間 | ◯ |
レポート作成の負担 | ◯ |
クライアントからの頻繁な問い合わせ対応 | △ |
頻繁なシステム間のデータ移動 | ◯ |
手動での請求書処理 | ◯ |
社内の情報共有の遅延 | ◯ |
従業員の単調な作業によるストレス | ◯ |
顧客データの管理と更新 | ◯ |
重複したデータの排除 | ◯ |
購買発注の処理 | ◯ |
手動での在庫管理 | ◯ |
個別にカスタマイズされたシステム間での連携問題 | ◯ |
人材不足による作業の遅れ | ◯ |
マニュアルベースのクオリティチェック | △ |
定例会議の準備作業 | ◯ |
メールによる承認フロー | ◯ |
頻繁なサポートチケットの発行 | △ |
手作業によるコード生成 | ◯ |
頻繁なシステムログの確認 | ◯ |
手動でのエラー報告 | ◯ |
頻繁なデータバックアップ | ◯ |
手作業によるデータのクリーニング | ◯ |
データ分析のためのデータ準備作業 | ◯ |
頻繁なデータのエクスポート・インポート | ◯ |
頻繁なマニュアルテスト | △ |
バグレポートの作成 | ◯ |
データベースの管理と更新 | ◯ |
社内通信の管理 | ◯ |
社内イベントのスケジューリング | △ |
業績管理のためのデータ収集 | ◯ |
プロジェクトの進行状況の追跡 | ◯ |
ITサポートのリクエスト管理 | ◯ |
CRMシステムの更新 | ◯ |
社員の時間管理 | ◯ |
ファイルとドキュメントの管理 | ◯ |
給与計算 | ◯ |
顧客の満足度調査 | ◯ |
リソースのスケジューリング | △ |
人事のデータ管理 | ◯ |
ベンダーとのコミュニケーションの管理 | △ |
ITインフラのモニタリング | △ |
アクセス権の管理 | ◯ |
ソーシャルメディアのモニタリング | △ |
ユーザー情報の更新と管理 | ◯ |
メールキャンペーンの管理 | △ |
ウェブサイトのモニタリング | △ |
データ検証 | ◯ |
クレジットチェック | △ |
ビジネスインテリジェンスの自動化 | ◯ |
アプリケーションのインストールとアップデート | ◯ |
サーバーの監視 | △ |
ログの分析 | △ |
ハードウェアとソフトウェアのインベントリ管理 | △ |
パスワードリセットとユーザー管理 | ◯ |
バッチジョブの管理 | △ |
権限承認フローの管理 | △ |
ITチケットのトライアージ | △ |
ビジネスルールの適用 | ◯ |
データセンターの運用 | △ |
サービスレベル契約の管理 | △ |
インシデントと問題管理 | △ |
ワークフローの可視化 | △ |
プロジェクトリソースのスケジューリング | △ |
オンボーディングとオフボーディングプロセス | ◯ |
社員のパフォーマンスレビューの管理 | △ |
雇用契約の管理 | ◯ |
顧客との契約の管理 | △ |
保守作業のスケジューリング | △ |
プロジェクトのマイルストーンとタスクの追跡 | △ |
開発とテスト環境のセットアップ | ◯ |
継続的インテグレーションとデプロイの自動化 | ◯ |
商品の価格調査 | ◯ |
不動産の相場調査 | ◯ |
SNS投稿予約 | ◯ |
グルメ情報サイトのランキング調査 | ◯ |
ネットショップへの商品登録 | ◯ |
ブログへの投稿作業 | ◯ |
夜間のデータ集計 | ◯ |
大量のファイル名を変更 | ◯ |
地図アプリへの地点登録 | ◯ |
RPAは業務効率化を推進する上で有効なツールです。
ただし、RPAの導入は属人的であった業務をロボットに置き換えるため、従業員によっては今後の立場に不安を覚える方もいるかもしれません。
RPAの導入はリストラ等による人件費削減ではなく、生まれた時間で業務の効率化や生産性の向上を図る目的だということを共有しておく必要があります。
また、部署間でも共通認識を持っておくことが重要となります。
他部署にも影響が出そうなルーティンワークの場合には、これまでのやり方を急に変えてしまうと混乱を招く恐れもあります。
業務の効率化に繋がらなければRPAを導入する意味がなくなるので社内間での事前共有は忘れずに行いましょう。
記事のまとめ
本記事では金融業界においてRPAを導入するメリットやその事例について解説しました。
ルーティンワークの多い金融業界ではRPAとの相性が大変良いです。
したがって業務効率化ためにRPAの導入を検討するだけの価値があると言えるでしょう。
また、RPAと一口に言っても製品ごとに異なるタイプや特徴を持っています。
どのツールを導入するかで費用やできる範囲も変わってくるため、可能な限り多くの製品知識を持っておくことも重要でしょう。
下記の記事ではおすすめのRPAツールを種類別に紹介しており、ツールを比較する上で見るべき注意点にも言及しています。
RPAツールに興味を持った方はぜひ参考にしてみてください。