さまざまな業界で活発に導入されているRPAですが、業務の効率化を目指して導入したものの「思ったより効果が出ない」「RPAの導入が進まず頓挫した」といった課題が少なからず発生しています。
その主な要因として考えられているのが、業務プロセスの可視化と業務フローチャートの作成です。
考えられるケースとしては、RPA化の対応をしている途中で、実は人の判断が必要であることが判明したり、自動化できない処理が含まれているなどの理由から、自動化の再設計を余儀なくされ、RPA導入が手戻りになることがあります。
そうすると、予定していたスケジュールではRPA導入が進まないばかりか、最悪の場合では導入自体が頓挫してしまうケースがあります。
そこで今回の記事では、RPA導入時に重要な業務プロセスを可視化するために有効な「業務フローチャート」について解説をします。
業務フローチャートの必要性や作成時のポイントについても解説をしていますので、最後までご覧いただければ幸いです。
そもそも業務フローとは?
業務フローとは、業務プロセスを「可視化」することを目的に、長方形や楕円形、ひし形などの図形を用い「フロー図」で作業の流れを表したものです。
業務フロー図を作成するメリットとして、業務の流れを誰が見ても分かりやすく可視化することで、どんな処理が含まれた業務なのか容易に把握できます。
そういったメリットから、業務プロセスの可視化以外にも、他部署への業務の共有、ボトルネックとなっている課題の洗い出し、その課題に対する改善策検討などに活用されています。
フロー図(フローチャート) | 業務のプロセス(過程)にある処理ステップや使用するシステム、処理順序、判断(分岐)といった一連の作業の流れをチャート(視覚的に分かりやすく表示した図)で表したものです。 |
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RPA導入前に業務フローチャートを作る必要性
さまざまな場面で活用されている業務フローチャートですが、RPA導入前にも作成する必要があります。
RPA導入は既存業務の中から、自動化に適している業務を選定しPRA化します。
そのためには、RPAに向いている「一定のルールに従った作業」や「定型的な作業」といったシンプルな業務を選定する必要があります。
しかし、業務フローチャートを作成せずに進めてしまうと、業務の全貌が把握できずRPAに向いている業務かどうか判断できないため「思ったより自動化できなかった」「RPA導入の効果が少ない」といった非効率な結果になってしまいます。
そのため、RPA導入前には業務フローチャートを作成し「自動化すべき業務の発見と、作業の明確化」を実施しましょう。
その他にも、副次的な効果として相互理解の促進や業務プロセスの改善などがあります。
相互理解の促進
フローチャートを作成することで、業務のプロセスだけではなく「その業務に関わる関係者」も明確になります。
そのことから、各関係者が業務プロセスを同じ視点で認識することにより、相互理解が促進され認識の齟齬や混乱を避けることができるようになります。
業務プロセスの改善
フローチャートとして視覚的に分かりやすい形式で可視化することにより、気づいていなかった業務のボトルネックに気づくことができます。
そして、認識できた課題を改善することにより、PRAの対象業務で無かったとしても「業務品質」の向上に繋げることが可能になります。
【RPA導入前必見】業務フローチャートの書き方
次は、RPA導入に向けた業務フローチャートの書き方として、3つのステップに分けて解説をします。
ステップ① 自動化する業務の一覧化
自社で実施している業務の現担当者、作業内容、作業手順、作業に要する時間、現状の課題といったことを一覧化します。
他にも、その業務に対して「どれぐらい人の手が取られているのか」の具体的な情報を記載するのも、おすすめです。
そういった情報を一覧化することで、どの業務が負担となっているかのかが明確になりRPA導入の妥当性について把握できたり、導入後にどれぐらい効果がでるのかについても検討しやすくなります。
また、RPAツールを選定する際も、どんな機能が必要かが明確になるため、適切なRPA製品を選ぶことが可能です。
ステップ② 自動化対象業務の選定
ステップ①にて洗い出した業務一覧から「RPAに向いている業務か」「少ない工数で自動化できるか」「費用対効果は高いか」について評価し、業務を選定します。
ここで、複雑な業務を選定してしまうと、RPAの導入効果を感じるまでに時間がかかってしまい、担当者のモチベーション低下や、RPA推進の鈍化に繋がってしまうため注意が必要です。
ステップ③ RPA導入後の業務フロー作成
ここまで準備が出来たら、実際に業務フローチャートを作成していきます。
業務プロセスを分かりやすく記載するために、一般的な処理ステップは「長方形や楕円形」などを使って表現し、分岐や判断といった処理は「ひし形」などを使って表します。
そして、その図形同士を処理方向に向かって矢印で繋ぎ、業務全体のフローを作成します。
他にも見やすい業務フローチャートを作成するにあたり、以下の点に注意しましょう。
業務フローチャートの作成時の注意点
(1)インプット・アウトプット・トリガーを明確にしておく
RPA導入に活用できる業務フローチャートを作成するためには、インプット(材料)、アウトプット(成果物)、トリガー(きっかけ)について明確にしておく必要があります。
たとえば、メールを受信し、その内容をExcelファイルに転記して、条件にあった文言があればメールを転送するような業務があった場合、各要素に当てはめると以下になります。
要素 | 業務内容 |
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インプット(材料) | 〇〇というメール(インプット)を受信 |
アウトプット(成果物) | その内容を △△というファイル(アウトプット)に出力 |
トリガー(きっかけ) | ◇◇という文言(トリガー)があれば、 担当者へメールを転送 |
各要素が明確になっていないと、何から始まり何で終わる処理なのかが分からず、プロセスとして成立していない業務になってしまいます。
そのため、業務フローチャートが完成した時は、各要素が明確になっているか必ず確認するようにしましょう。
(2)登場人物を明確にする
2つ目は、登場人物を明確にすることです。
この登場人物というのは人だけではなく、その業務で使用しているシステムやアプリケーションも含みます。
基本的な部分ですが、誰からモノ(インプット)を受け取り、誰に渡す(アウトプット)のかといった流れを、正しくフローチャートに記載することで漏れのない自動化が行えます。
(3)時間軸を明確にする
時間軸を明確にするとは、対象の業務を午前中で終わらせる必要があるのか、夕方の18時までに終わらせれば良いのかといった部分を明確にすることです。
仕事には納期があり、それぞれに優先順位が存在します。
そういった要素も加味して自動化は行う必要がありますので、業務フローチャート作成時には必ず記載するようにしましょう。
(4)判断基準と例外対応処理を明確にする
RPAは例外処理や、作業者が個人で設定しているルールや基準などの、人の判断が必要となる作業の自動化には向いていません。
そのため、人が判断している業務プロセスを洗い出し、人が介入しなくても良い「判断基準」や「例外対応」を検討する必要があります。
ただし、人が介入しているプロセスを無理やりゼロにする必要はありません。
発生時の影響度が高い処理などは、RPAの稼働を止め人が判断すべきだと思いますので、そういったケースの場合は、業務フローチャートに「発生トリガー」「対応方法」「人が判断する理由」などの詳細を記載しておきましょう。
業務フローチャート作成時のポイント
RPAを導入するためには、効果的な業務フローチャートを作成する必要があります。
そのためには、いくつか押さえておきたいポイントがあるため、4つ挙げて解説します。
ポイント① 業務に関わるすべてを可視化する
何度も解説していますが、正しく業務を可視化できているかチェックしましょう。
たとえば、その業務を行う目的や背景も含めて可視化することで、自動化業務選定時の妥当性に活用することもでき、スムーズにRPA導入を進めることが可能です。
しかし一方で、業務プロセスの可視化が中途半端だと「分岐が多く自動化しにくい」や「判断基準が曖昧」など、想定していない情報が後から出てくることで、スムーズな導入が行えなくなります。
そのため、対象の業務については「俯瞰」で確認し、すべてのプロセスをフローチャートへ落とし込むようにしましょう。
ポイント② 関係者たちがどの角度で見ても理解できる形にする
RPA導入に向けた業務フローチャートは、誰が見ても理解できる形で作成されていることが重要です。
現場の担当者しか理解できない専門的な用語を使うと、業務プロセスの理解が困難であったり、認識の齟齬が発生してしまう可能性があります。
一方で、誰もが理解できる形で業務フローチャートが作成されていると、RPAに関連している関係者が同じ認識でプロジェクトを進めることができます。
また、新規担当者が配属された場合も、引継ぎやトレーニングをスムーズに行えるため、不要な工数をかけなくて済みます。
一度、サンプルとして業務フローチャートを作成し、関係者間で問題ないかすり合わせてみるのも、おすすめです。
ポイント③ フローチャートに使用する図形の意味を統一する
業務フローチャートの作成時に使用する図形や記号については、意味を統一することが重要です。
各処理で使用する図形や記号に、共通の意味や用途を割り当て統一することで、フローチャート全体が型として一貫性が保たれるため、理解しやすく読みやすいフローチャートになります。
以下はフローチャート作成時の一般的な図形の種類と意味です。
図形 | 意味 |
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楕円形 | 業務プロセスの開始と終了を表します。 |
四角 | 各処理について表す記号です。1つの図形に対し1つの処理を記載して使用します。 |
ひし形 | 作業工程の中で発生する分岐を表します。ひし形の各頂点から矢印を伸ばし、分岐先の処理図形へ繋げます。 |
ポイント④ RPA導入後に再度フローチャートを作成する
業務フローチャートに従ってRPAを導入した後には、再度フローチャートについて確認します。
RPA導入タイミングで「予定していたフローでは開発できなかった」「エラー想定が不足していた」といった状況は往々にして発生します。
そのため、RPAを導入したら終わりではなく「継続した運用」を意識し、何かあった際に正しい業務フローチャートを見直せるよう修正しておきましょう。
記事まとめ
今回の記事では、RPA導入前に実施する業務フローチャートの書き方や、作成時のポイントについて解説をしました。
業務フローチャートとは、業務プロセスを可視化するために各処理を図で表したもので、その図形や記号は誰が見ても理解できるように意味を統一する必要があります。
また、作成することによってRPA導入への活用だけではなく、ボトルネックとなっていた箇所を改善することにより、自動化せずとも生産性の向上に繋げることができる活動です。
ぜひ、RPA導入前には対象となる業務プロセスのフローチャートを作成し、活用することで業務を改善しスムーズな導入を目指しましょう。
今回の記事がRPA導入の一助になれば幸いです。
次の記事ではRPAツールの選び方と価格・機能・難易度別におすすめのRPAツールを徹底比較しています。RPAの導入を検討されている方はぜひご覧ください。