近年、「働き方改革」への取り組みやワークライフバランスの実現に向けて、多くの企業が業務効率化と生産性向上を図るためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に取り組んでいます。
しかし、RPA導入がもたらす効果や活用メリット、どんな業務に適用したらいいかなどが分からず、導入に踏み切れていない企業も多くあるのではないでしょうか。
本記事では、これからのRPAの導入を検討している、またはどのように業務効率化を計ったらよいか悩んでいる方に向けて、RPAを活用する代表的なメリットや具体的な業務改善事例などを解説します。
RPA(Robotic Process Automation)とは
RPA(Robotic Process Automation)は、ソフトウェアを使用して業務プロセスを自動化する技術のことです。
人が処理している作業で、時間のかかるルーチン業務や、繰り返される実行されるプロセスなどを自動化することで業務の効率化を図ることができます。
例えば、基幹システムへのデータ入力や出力作業、ファイル操作、定型的な問い合わせ対応など、多岐にわたる業務をRPAとして置き換えることが可能です。
RPAは業務の効率化を実現することで、生産性を高めるだけでなく、ヒューマンエラーの低減や、不要なコスト削減などに好影響を与えることができます。
日本ではどれくらい導入されている?
欧米の金融機関をはじめ、世界各国で導入が進んでいるRPAですが、日本国内での導入はどうでしょうか。
株式会社MM総研が市場調査のデータをもとに作成した「RPA国内利用動向調査 2022(2022年9月時点)」などのレポートをもとに、国内のRPA導入状況について解説します。
大規模・中規模の企業では45%が導入している
年商50億円以上の大手企業・中規模企業では、RPA導入率が45%(前年度37%)と増加しており、半数近い企業が導入するまでになっています。
さらに、今まではスモールスタートとして個別の業務に自動化を適用するケースが多かったのに対し、現在では業務プロセス全体に自動化を適用し、より効果的にRPAを利用する事例が増えてきており、RPAが浸透してきている状況がうかがえます。
RPAの活用範囲が単一から業務プロセス全体へ
「RPA活用有無がビジネスプロセス自動化に格差を生む」のレポートによると、年商50億円以上の企業ではRPAなどを活用して自動化範囲を広げるケースが増えてきています。
導入当初は特定業務の自動化を進めており、効果を実感したことで部門や業務の垣根を越えてプロセス全体を自動化するようになったとみられます。
導入企業全体の25%が、新たに自動化の適用範囲をプロセス全体に広げ、RPAを進めている状況です。
自治体のRPA導入率はなんと67%
「自治体のRPA導入率67%、デジタル庁と連動してDX進む」のレポートによると、総務省が中心となり推進する「自治体DX推進計画」などの影響や、内部要因として「Excelなどを使用したホワイトカラー業務が多いこと」「慢性的な人員不足なうえに新型コロナウイルスなど新たな業務への対応に追われている」といった理由もあいまって、自治体における導入率は67%と民間企業におけるRPA導入率を上回っている状況です。
以上の理由から、国内のRPA導入はこれからも加速し、導入率は向上していくことが予想されます。
株式会社 MM総研
ICT業界を専門に多くの企業・メディアに、その幅広い情報収集をしたり、豊富な経験と知識を持つコンサルタントが課題解決につながる最適なソリューションの提案などを実施しているリサーチ・コンサルティング企業です。
参考:RPA国内利用動向調査 2022(2022年9月時点), RPA活用有無がビジネスプロセス自動化に格差を生む, 自治体のRPA導入率67%、デジタル庁と連動してDX進む
RPAを活用する代表的な3つのメリット
そんなRPAですが、活用することで「どんなメリット」があるのか、3つあげて解説をします。
メリット①時間ばかりかかる業務をRPAに任せることができる
メリットの1つ目として、RPAを活用すると誰でもできる単純作業や、時間のかかるルーチン業務をRPAにまかせることができます。
そうすることで、今まで時間がなくて出来ていなかったクリエイティブな業務に注力することができます。
また、副次的なメリットとして、ストレスが軽減されたり、精神的な負担がなくなることによる離職率の低下も図ることができます。
メリット②取り組むべき仕事に集中できる
メリットの2つ目としては、人が取り組むべき仕事に集中することができるようになります。
今までは、日々の定型作業や時間のかかる繰り返し作業などにリソースを割かれてしまい、本来着手したいと思っている業務に手を付けることが出来ませんでした。
しかし、RPAを活用することによって、時間になればRPAが自動で該当の業務を進めてくれるため、その空いたリソースで生産性の高い業務や、本来やるべき業務に集中し対応することができます。
メリット③人手不足を解消できる
2008年をピークに労働人口が減少し続けている日本ですが、長時間労働など労働環境の改善や業務効率化による生産性向上がキーとなっている状況です。
そんな状況に対し、RPAを活用し「その業務を実施できる人材をロボットに置き換える」ことで、人手不足が解消されます。
また、ロボットの台数を増やしていけば、比例して人材不足の解消に繋げることもできます。
RPAでできる業務改善
それでは、次にRPAを導入することで、どんな業務改善ができるのかについて解説します。
RPAは製品にもよりますが、特性があり「得意なこと」と「不得意なこと」が存在します。
ここでは、RPAが得意としていることを利用した業務改善例について紹介をしていきます。
業務改善事例①ルールが定義されている作業
RPAは、ルールが定義されている業務の自動化が得意です。
RPAツールの仕組み上、自動化したい業務のプロセス(クリック、入力などの操作)をツール側に記憶させて、何度実行しても同じ品質の処理が実現できるように作られています。
そのため、実行ごとに業務プロセスが代わるような処理や、想定外のエラーが良く発生するような業務には向いていません。
例えば、請求書の発行や、月次レポートの作成処理など「一定のルール」にしたがって処理する業務の改善に向いています。
業務改善事例②大量のデータ処理を必要とする業務
RPAは人が実行する時のスピードよりも、早く正確に処理を実行することができるため、大量のデータを扱う業務に適用することで、多大な効果を発揮することができます。
例えば、大量の入力データをデータベースや基幹システムに登録するような業務があった場合、人であれば1件当たりの処理時間がかかることもさることながら、「慣れ」や「疲れ」により、ヒューマンエラーが発生するリスクもあります。
RPAであれば、人のように疲れたりしないため、決まった作業を正確かつスピーディーに実行することができます。
業務改善事例③複数のアプリケーションを横断する業務
RPAはマクロのように何かのアプリケーションを自動化するだけではなく、複数のアプリケーションを横断した自動化を得意としています。
例えば、ECサイトを運用している場合、注文が入ると、在庫管理、請求処理、配送管理など複数のシステムを連携して処理するケースがあると思いますが、RPAであれば全システムを経由して自動化することができ、効率化を図ることができます。
業務改善事例④人の判断を必要としない業務
RPAは人のようにケースバイケースで状況を判断し、分岐を進めていくような業務には向いていません。
そのため、毎月月初へ従業員に連絡事項をメール送信するなどシンプルな業務への適用に向いています。
ただし、人の判断が必要な業務だとしても、業務プロセスを調整することで自動化が可能となるケースもあります。
例えば、定期的にレポート作成し、承認後にメール送信をするという業務があった場合、人の判断が必要となるのは「最後の上長承認だけ」のため、それ以外の「レポートの作成」と「承認後のメール送信」については自動化を適用し、承認部分だけを人の手で実施するようなプロセスにして効率化を図ることも可能です。
人の判断が必要だから業務改善に適していない、と判断してしまう前に何か業務プロセスを変更できないかを検討することも重要です。
実際の業務改善事例と導入による効果を紹介!
では、最後にここまでの内容を踏まえて、RPA導入した企業で実施された改善事例について、どんな効果があったのか紹介します。
ベル少額短期保険株式会社
対象業務
お客様への返金に伴う、基幹システムへの顧客情報の転記作業様
効果
担当者が紙の返金対象者リストを見ながら対象顧客の情報をデータベースから検索し、1件につき氏名や住所、電話番号、口座番号といった約20項目の情報を基幹システムへ手作業で転記するという形で作業を実施していました。
また、転記ミスなどのヒューマンエラーに対応するため、該当の作業はダブルチェックする体制で業務しており、約半日程度の時間を費やしていたのです。
そこで、RPAを導入し業務プロセス上どうしても人による作業が必要な項目を除いて、RPAによる業務の置き換えを実現。
その結果、作業時間の大幅な短縮に加えて、転記ミスに気を遣う精神的な負担もなくなりました。
今後の活動としては、まだ社内でRPAの活用効果が浸透していないと感じるため、社内メンバー全員を対象として操作勉強会などを実施し、社内全体でRPAの推進に取り組んでいけるように取り組んでいくとのことです。
吹田徳洲会病院
対象業務
経理報告タイミング時に発生する未収金の入金確認作業
効果
定期的に、経理への報告日が近づいてくると、医事課のメンバーが日常業務を終えてから残業して未収金の入金確認作業を実施していました。
日常業務を終えてから残業での対応となるため、従業員の精神的な負担も大きな作業でしたが、8時間かかっていた作業がRPAを活用することで1時間へと短縮ができました。
また他にも「レセプト返戻のデータから必要なデータを抽出する作業」や「各担当者にメール報告する作業」など定型作業のロボットを25体ほど開発。
現在は特定の課に自動化を適用している状況ですが、今後は院内の課題を抱えている部署へ適用していきたいとのことです。
讀賣テレビ放送株式会社
対象業務
「dボタン」の押下情報を集め会議資料に纏める作業
効果
RPAを適用した業務は、テレビ・リモコンの「dボタン」が押された時に、視聴地域のニュースや天気予報、放送中の番組に関連した情報などを表示する「データ放送」のアクセスログを集計し、会議資料に纏める作業です。
毎週火曜日に使用する資料のため、担当者が急いで2時間ぐらいをかけて作成をしていました。
RPAを活用することで、2時間かかっていた資料作成が30分ほどで完了し、年間でみると約80時間削減されました。
また該当部署以外にもRPAの適用を開始しており、労政部向けには勤怠管理の一部を自動化するロボットが複数つくられています。
他にもOCRを利用したロボット開発も進められており、本格導入に向けて、今はセキュリティ問題や利用範囲を拡大した際のことを検討し、サーバー対応版の導入も検討しているところとのことです。
Man to Man Animo株式会社
対象業務
Webサイトを巡回し情報を一覧に纏め、メールで報告する業務
効果
RPAを適用した作業は、東海地域の主要自治体Webサイトを毎日巡回し、更新された入札情報から自社事業に近いものを選んで一覧表にまとめ、担当部署にメールで通知する作業です。
毎日3時間ほどかかっていました。
他にも「請求データと対応する情報を基幹システムから抽出し振替伝票を作成する作業」などを含めた定型作業に対し適用しました。
その結果、人の手を介さず作業が実施できるようになり業務効率化を図ることができたそうです。
西部ガス情報システム株式会社
対象業務
仕訳入力作業
効果
適用した業務は、勘定奉行のアプリケーションを起動し、仕分け入力を行う作業です。
人間が作業をすると100行の仕訳入力とチェックに2時間かかるものが、「人間5分+ロボット3分」と大幅に削減することができました。
そういった業務効率化が進んでいる影響で、年々スタッフが残業せずに帰宅できる時間が早まっているそうです。
今後は連結決算資料や各部門月次データ、各種明細などの入力など、RPAの適用範囲を広め活用することを計画中とのことです。
記事まとめ
今回の記事では、多くの企業が業務効率化と生産性向上を図るために導入しているRPAの、国内での導入状況や活用するメリット、具体的な導入事例について解説をしました。
RPAは定型作業や時間のかかる作業を置き換え、業務効率化を図ることができる大変優秀なツールです。
しかし、その活用メリットや具体的な事例などを知らないまま、導入に踏み切るのは難しいと思います。
また、事例を見て頂くとわかりますが、どの企業も導入する目的を明確にしています。
導入に成功している企業に共通している点として、RPAを導入する目的や改善したいポイントを明確にしていることです。
今回の記事がきっかけとして、自社の業務を整理したり導入方法を検討したりなど、RPA導入の一助になれば幸いです。