ソフトウェアを開発や運用において、リリース前の正常動作検証や想定通りの稼働をしているか確認する「テスト」のフェーズは大変重要な工程です。
テストを「工数・コストがかかる」といった理由で蔑ろにすると、想定外のサービス停止・それに伴うコストの上乗せといったマイナス要素が加わり、さらにはユーザーからの信頼低下にも繋がりかねません。
しかし、不備のないテストを実施しようとすると工数がかかります。
人手不足の状況もあいまって「人の手で実施するのには限界がある」「テスト時にヒューマンエラーが発生する」といった課題を感じている方も多くいるのではないでしょうか。
そんな方におすすめなのが、業務自動化ツールとして浸透しているRPAの活用です。
本記事では、既存のテスト自動化ツールとRPAツールの違いから、それぞれのツールでできること、RPAツールを用いテストを実施することのメリット・デメリットについて解説します。
また、具体的なRPAを活用したテスト自動化の流れについても解説していますので、最後までご覧いただけますと幸いです。
RPAとテスト自動化ツールの違い
ここでは、ソフトウェアのテスト自動化に活用できる「テスト自動化ツール」と「RPAツール」の違いについて解説をします。
それぞれの違いを理解し、どちらが自社のテスト工程に合っているのか検討いただければと思います。
RPAは定型業務の自動化がメイン
RPAツールの正式名称は「ロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation)」です。
直訳すると「ロボットによる業務の自動化」となり、その名の通り「ソフトウェアロボットを活用し定型業務を自動化する」ことをメインテーマとしているツールです。
そのため、人が実施している定型業務や大量の繰り返し業務など「ルールが定まっている業務」を自動化することが得意です。
また、各種システムを横断した自動化やスケジュール管理による定期的な実行機能なども備えています。
テスト自動化ツールはソフトウェアのテスト自動化がメイン
テスト自動化ツールは、ソフトウェアやアプリを開発・運用する際に必要となる「テスト部分」を自動化するツールです。
ソフトウェアを開発し、本番リリース前に実施するテストフェーズにて自動化ツールを活用することにより「省力化」「実施時間の削減」「精度の向上」などが期待できます。
また、不具合を早期に発見でき、ヒューマンエラーの抑制も効果のひとつです。
それぞれができることや導入メリット
次はそれぞれの自動化ツールが「できること」や「導入するメリット」について解説します。
RPAでできること
「RPAは定型業務の自動化がメイン」でも解説しましたが、RPAツールは人が実施している定型業務などを自動化することが得意です。
ツールの使用方法としては、ツール側に自動化したい作業手順を記録する仕組みがあり、その記録した手順を実行することで人が実施していた作業を自動化することができます。
その結果、業務効率化を図れるだけではなく、処理品質の安定やヒューマンエラーの抑制につなげることが可能です。
RPAツールを活用して自動化できる業務例
- 交通費や経費などの清算処理
- 日報や月報などのレポート作成作業
- 在庫管理と通知作業
- 請求書作成作業
- 基幹システムからのデータ出力作業
- Webサイトからのデータ収集作業
テスト自動化ツールでできること
テスト自動化ツールは、テストフェーズに手作業で実施していたシナリオの作成や評価などを自動化することができます。
実施するテスト内容や機能によって種類があり、次のように分類することができます。
静的解析ツール
開発された「コード」を解析することで、構造的な欠陥を発見することを目的としたツールです。
コーディング規約の違反検出をはじめとする、間接的なシステム障害の原因を取り除いたり、デッドコード(※1)、メモリリーク(※1)などの発生を検出できるのが特徴です。
ただし、ハードウェアの動作といった動的な不具合検出はできないため注意が必要です。
※1デッドコード | プログラムを実行する上で「実行されることがない」ため、意味のないコードのことをデッドコードと言います。 デッドコードは残ったままだと実行時のメモリ所要量が大きくなったり、後からのメンテナンス時に意味がわかりづらくなるといった問題が起きるため、無害であっても取り除くべきであるとされています。 |
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※2メモリリーク | プログラムのバグの一つで、使用していないメモリを開放することなく確保し続けてしまう現象のことを言います。 メモリの空き領域が減少することで、処理に長い時間がかかったり動作が停止したりする可能性があります。 |
モデルベースドツール
一定のルールに基づいて記述されたシステムの要件や仕様書、設計書などのドキュメントから、テストケースを自動的に生成するツールです。
設計書から図や表といった規定の記述内容を読み取り、自動的にテストを生成できる特徴があります。
また、元となる一定のルールに基づいて記述されたドキュメント(モデル)を使ってテストケースを作成することで、テストの実行内容や網羅性が可視化されるようになります。
単体テストツール
テスト対象のコードからテストケースを自動生成し、そのケースをテストするコード作成から実行までを自動化するツールのことです。
特徴としては、プログラムを構成する比較的小さな単位(ユニット)が、それぞれの機能を正しく果たしているかを検証します。
ただし、個々のユニット単位でテストケースを作成するため、準備に時間と手間がかかることがデメリットとして挙げられます。
UIテストツール
UIテストツールでは、アプリケーションの視覚的要素(ユーザーインターフェース、UI)のパフォーマンスと全体的な機能性を測定するために実施されるテストです。
視覚的要素に関するさまざまな機能を検証し、予期せぬ結果や欠陥、バグがないことを確認します。
テスト管理ツール
テスト管理ツールは具体的なテストを自動化するツールではありませんが、各ツールで実施しているテストケースを一元管理することができます。
障害の発生や進捗状況の管理など「煩雑な作業を効率化」してくれ時短に繋げることができるツールです。
RPAでもテスト自動化はできる
RPAは一定のルールが定義されている作業の自動化が得意なため、同じ手順でくり返し検証が必要なテスト作業にRPAを適用することは可能です。
そんなRPAツールを使用した時の具体的なメリットと、対策しておくべきデメリットについて解説します。
RPAでのテスト自動化のメリット
RPAを使ってテスト自動化をするメリットは以下の3点です。
手作業では難しいテストも実行できる
ソフトウェアのテストには「大量のインプットデータ処理」や「何百というオブジェクトの挙動確認」をしたり「長いスパンでの確認作業」があったりなど、手作業で実施するには難しい作業も多く存在します。
しかし、RPAであれば24時間365日稼働することができ、人のように「疲れ」や「慣れ」がないため、上記のようなテスト自動化に向いています。
また、大量のデータを扱う処理であったとしても、人よりも早く処理することができますので、確保している期間よりも早くテスト作業を完了することが可能でテストフェーズの効率化に繋げることができます。
ヒューマンエラーを防止できる
テスト作業については大変大事なフェーズではありますが、単純な作業も多いため、どうしてもヒューマンエラーが発生する確率が高くなってしまいます。
またソフトウェア開発の熟練者であっても、ヒューマンエラーをしてしまう可能性はゼロではありません。
その結果、重大なバグが残っていることに気付かずリリースしてしまい、致命的な損害を招いてしまう恐れがあります。
その点、RPAであれば「あらかじめ記憶した手順に沿って実行する」ため、ヒューマンエラーでありがちな「集中力不足」などによるミスを発生させません。
また人よりも素早く処理ができることによる効率化や、精度高く実施できる正確性から成果物の品質向上が期待できます。
テスト業務を効率化することができる
RPA導入により24時間365日稼働ができることによる効率化や、人よりも素早く処理することができる効率化もそうですが、あらかじめテストに使うRPAが完成していれば、人の手を介することなくテストが実行できます。
担当者が病欠により工程が進められないといったことが発生せず、当初のWBS(※1)を変更なく対応することが可能になります。
※1 WBS | WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)のことで、プロジェクト全体の作業を段階的に細かなタスクに分解して計画を立て、実績管理することです。 それによってリリースまでの期間などを管理しています。 |
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デメリットはある?
さまざまな面でメリットのあるRPAですが、同時にデメリットも存在しているため注意が必要です。
ここでは、RPAでテスト自動化を行うデメリットと対策について解説します。
テスト対象によってはRPAで自動化できないものがある
RPAはさまざまなシステムに対して自動化ができるような仕組みになっていますが、テスト対象となるソフトウェアの種類やテスト内容によっては自動化できない可能性もあります。
またRPAツールによっては「テスト自動化に向いていない」ツールも存在するため、注意が必要です。
導入を検討する際は「テスト自動化で活用した実績があるか」や「テスト対象となるソフトの操作が可能か」などを確認しましょう。
そして、RPAツールによっては無料ライセンス期間を設けているケースも多いため、そういったサービスを利用し対象とするテストが実施できるか確認するのをおすすめします。
RPAツールの導入にはコストがかかる
RPAツールの導入には、初期費用とランニングコストがかかります。
高機能なツールだと初期費用に加え、毎月のランニングコストが高額になる可能性があるため、テスト業務をRPA化することで「コストに見合う効果が得られるのか」について精査する必要があります。
またRPAツールも備えている機能や性能によって価格にばらつきがあるため、RPA導入検討時は「対象としているテスト業務にかかる人件費」などのコストを計算しておき、どれぐらいの投資対効果となるのかしっかりと図っておきましょう。
RPAツール自体の運用と保守が必要になる
導入したRPAツールを継続的にテスト自動化ツールとして使用していくためには、運用ルールの設定や各種メンテナンスが必要です。
RPAはテストしたい内容を記録することによって自動化できるため、その記録していた手順に変更があった場合などは、メンテナンス作業が必要になります。
そういった面からも「どんなテスト自動化を記録したRPAなのか」といった内容を管理しておき、スムーズに保守対応が出来るように準備しておきます。
もし、運用や保守面に自信がない場合は「なるべく操作が簡単なRPAツール」や「ベンダーの保守サービスが豊富なツール」を導入するようにしましょう。
RPAでのテスト自動化の流れ
RPAを使ってテスト自動化をする際の流れについて、3つのステップに分けて解説します。
ステップ①自動化するテスト内容を選定する
はじめに、自動化するテスト内容の選定をする必要があります。
本ステップを省いてRPAツールを選定してしまうと、期待しているテスト自動化ができなかったり、不要に高機能なツールを選定することによるコスト過多になる可能性があるため、必ず実施しましょう。
選定のコツとしては、RPAが得意としている「単純な繰り返し作業」や「大量のデータを扱うテスト」「人的ミスが起こりやすいテスト」などを元に選定することで、RPAの導入効果を最大限に発揮できます。
ステップ②テスト内容に適したRPAツールを選定する
自動化したいテストが選定できたら、それに見合ったRPAツールを選定します。
対象としているテスト項目に適していることはもちろんですが、操作性・導入コスト・サポート内容などを総合的に鑑み、十分な費用対効果を得られるツールの選定をしましょう。
また、RPAツールには無料でトライアルできるツールも多くありますので、実際の操作感など使い勝手を確認し、自社に適したツールか確認することをおすすめします。
ステップ③RPAツールを使ってシナリオを作成と実行
RPAツールを導入した後は、実際にテストを自動化するシナリオを作成し稼働させます。
RPAは特性上、設定した通りに動くためシナリオの精度は極めて重要です。
テストフェーズでミスを発生させないためにも「どう作り込む」かについて綿密に話しておきましょう。
記事まとめ
今回の記事では、RPAツールとテスト自動化ツールの違いや、RPAを使ってテスト自動化するときのメリット・デメリットについて解説しました。
テストフェーズはソフトウェア開発にとって大変重要な工程ではありますが、相当な手間と工数がかかる作業でもあります。
そういった作業を自動化することによって、テストフェーズが効率化されるだけではなく、ソフトウェア開発自体に時間をかけることができるようになるため、より良い製品開発に繋げることができます。
本記事を参考にしていただくことで、テスト業務効率化の一助になれば幸いです。