
地域医療連携を支える自動化
大学病院で進むRPAによる業務改革

がん診療や難治性疾患、複数の持病を抱える患者への専門的治療に取り組み、地域の医療機関から紹介された多くの患者を受け入れている。治療後はかかりつけ医へ戻す逆紹介も積極的に行い、地域と連携した医療体制を構築している。
また、医療機関同士が診療情報を共有できる「くまもとメディカルネットワーク(KMN)」の活用にも力を入れており、地域全体でスムーズに医療連携が行える仕組みづくりを推進している。
MICHIRU RPAを導入するに至った背景や理由について教えてください
熊本大学病院では、県内の医療機関同士が患者情報を共有する「くまもとメディカルネットワーク(KMN)」の推進に取り組んでいます。
KMNを利用することで、紙やCD-Rによる受け渡しが不要となり、ペーパーレス・CDレス化による郵送費削減だけでなく、誤郵送を減らしながら安全かつ迅速に情報共有が行えます。
しかしその一方で、KMNの画面操作による文書の送受信や画像データの取り込み、電子カルテとの紐づけなど、実際の運用では手作業の工程が多く、現場の業務負担が大きいことが課題でした。
そのためKMNの有用性については一定の理解を得られるものの、実際の操作に時間がかかることから、利用促進の妨げになっていました。
こうした背景から、業務負担を軽減しつつ、KMNの利用をより広く推進させたいという目的で、2019年頃からRPAの導入検討を始めました。
RPAによる業務支援ツールを探している中で、知り合いを通してMICHIRU RPAをご紹介いただいたことが、KMN業務の自動化に取り組むきっかけとなりました。
その後、他の製品と比較検討を行いましたが、画像認識による画面操作の自動化との相性の良さや、医療機関でも導入しやすいコストを評価し、最終的にMICHIRU RPAを採用するに至りました。
導入初期は、KMNの文書送信業務から自動化に着手しました。
院内の運用フローやシステムとの連携方法を調整しながら、段階的に仕組みを整備し、現在は複数の業務に自動化を広げる体制を構築しています。

熊本大学病院 医療情報経営企画部 中村 太志様
くまもとメディカルネットワーク(KMN)は、熊本県・熊本県医師会・熊本大学病院の3者が協定を結んで運営する、地域の医療・介護連携を支える全県単位の情報共有システム。病院、診療所、薬局、介護施設などをネットワークでつなぎ、患者の診療・調剤・介護情報を施設間で共有することを目的として構築されている。患者の受診状況、治療歴、検査データ、画像データなどを関係施設が参照できるため、紹介状や紙資料、CD-Rといった媒体によるデータ受け渡しを必要としない。これにより、情報共有の迅速化と医療・介護サービスの質向上に寄与する。KMNの機能のひとつに、専用の画面を操作して文書や画像データを送受信する文書送受信機能があり、主に医師などの医療従事者や地域連携室のスタッフが操作を行う。
※以降、本文では「KMN」と表記。
自動化している業務内容と その効果について教えてください
現在は、くまもとメディカルネットワーク(KMN)の文書・画像の送受信業務を中心に、合計14個の操作セットを稼働させています。
- ・ 送信関連:8種類
- ・ 受信関連:3種類
- ・ KMN利用状況の集計:3種類
これらを9台の端末で24時間運用しており、年間では約3,600時間の業務削減につながっています。
送信では医師の負担が、受信ではKMN担当者の負担が大きく軽減され、業務全体がスムーズに回るようになりました。

医療情報担当スタッフが、別室のRPA用端末を遠隔操作して管理している。
―― 送信業務はどのように変わったのでしょうか?
医師が電子カルテで作成した診療情報提供書やPACSに保存されている画像をKMNで送信する一連の作業を自動化しています。
自動化前は、医師自身がKMNにログイン認証した上で画面を操作しながらすべての入力処理を行う必要があり、特に添付するデータ量の多いケースではかなりの負担になっていました。
現在は、電子カルテ上で送りたい文書やレポート、画像を指定し「送信依頼」を行うだけで、KMNへのログインから送信完了までをRPAが自動で行うため、負担が大幅に軽減されています。
―― 受信業務についても教えてください。
受信業務では、KMNからの文書や画像をダウンロードし、電子カルテに登録する作業を自動化しています。
これまでは、日々の新着文書を1件ずつ確認してダウンロードし、カルテへ登録するまでを手作業で行っていたため、件数が多い日は特に負担が大きく時間もかかっていました。
現在はこれらの処理をRPAが一括で自動実行するようになり、KMN担当者の作業が大幅に削減されています。
RPA導入時の取り組みや現場の声を教えてください
KMNの業務は診療科ごとに使い方や運用のクセが異なるため、まずは共通している部分から自動化に着手し、少しずつ範囲を広げていく方針で進めました。
当院は職員数も多く、すぐに全体へ展開し浸透させることが難しいため、各診療科に「KMN推進リーダー」を置いて説明や周知を行ったり、操作説明の動画を作成して共有したりと、段階的に理解を深めてもらうよう工夫しています。
また、これまで紙やCD-Rで行っていた作業がKMNに置き換わることで、業務フローや運用文化そのものも変えていく必要があります。
慣れた方法を手放すことに抵抗がある場面も多かったため、病院全体の取組としてKMNを推進する体制を正式に整えることも大切でした。
院内外にまたがるKMNのさまざまな課題を集約し具体的な方策を検討提案するため、コアメンバー会議を院内に設置し、外部委員にも参画してもらいながら、地域医療連携の担当者や事務担当、KMNの専任担当者と連携し、組織的にRPA運用を支える仕組みを整えてきました。
導入当初から、RPAによる自動化は医師・事務双方の負担軽減に大きく貢献し、現場からも「便利になった」という声をいただいています。
医師からは、KMNにログインせずに文書が確認できるようになったことを評価する声が多く、KMN担当者からは、受信作業が大幅に減って業務がスムーズになったという意見が挙がっています。
ただし、RPAの構築・運用には一定のスキルも必要で、現在は専任担当者が中心となって対応しています。
今後は医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養管理士、理学療法士など、多職種の業務支援にもRPAを広げていきたいと考えています。
KMNで扱う文書の種類もまだ増やせる余地があり、引き続きブラッシュアップを続けていく予定です。
今後の展望や 医療機関の方々にメッセージがあれば教えてください
今後も、くまもとメディカルネットワーク(KMN)に関わる業務の自動化を中心に取り組んでいく予定です。
大学病院は紹介患者さんが多いため、どうしても文書のやり取りや画像データの受け渡しが頻繁に発生します。紙原本だとどうしても電子化にスキャンが発生しますし、CD-Rを介す画像データの取込みや出力にも人による作業を必要とするため、そこにタイムラグが生じます。
年々増え続けるこのようなボトルネックを、KMN活用を推進することで少しでも緩和できればと考えています。
現在は主に医師を対象とした送受信業務支援が中心ですが、理学療法士や看護師、薬剤師、栄養管理士、MSWなど多職種が扱う文書は多く存在するため、その領域までRPA支援を広げていきたいと考えています。
文書の種類もレポートや情報提供書、報告書などまだ増やせる余地があり、今後も改善を続けていくことで、より包括的な業務支援につなげていきたいです。
そして、医師だけでなく、幅広い職種がKMN活用を介して相互に連携を深めることで、患者がいつまでも地域で安全安心に暮らし続けられる保険医療体制の充実に貢献できればと思っています。
同じ医療機関の方々にお伝えしたいのは、RPAは小さな部分からでも始められるということです。
興味はあっても、「誰が担当するのか」「どこから手をつけるのか」で止まってしまうケースが多いと感じていますが、まずはひとつの定型業務からでも十分に効果を実感できます。
当院でも最初は限られた範囲からスタートし、運用を続ける中で徐々に領域を広げながら現在の形に育ってきました。
医療現場は今後ますます人手不足が進むと言われています。
人がやるべきことは人が、機械に任せられることは機械に、と役割を分けていくことが必要になる時代だと思います。
RPAはその変革の一歩として非常に有効な手段だと感じていますので、興味がある医療機関にはぜひ前向きに取り組んでみていただきたいですね。
