少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、2019年に働き方改革が施行されました。
それ以来「長時間労働の解消」や「業務効率化」が各企業の課題となり、それぞれの方法で対応が進められています。
そんな業務自動化を実現する為のツールとして話題なのが「RPA」と「マクロ」です。
どちらも共通点としては「定型業務を自動化し効率化をはかる」ことができるツールですが、どんな違いがあるのでしょうか。
今回の記事では「自動化したい業務シナリオはあるが、適しているのはどちらなのか」「ツールを導入する際、どんなことに気を付けるべきか」と悩んでいる方に対し、RPAとマクロの違いや、導入のポイントを解説します。
RPAやマクロの違いや向いている業務、導入方法を知り、自身の業務に適用するアイディアを得たい方は是非参考にしてください。
同じ業務自動化のツールですが、似て非なる存在の「RPA」と「マクロ」について解説していきます。
RPAとマクロの違い
RPAやマクロは定型的な単純作業を自動化することが得意なため、人の手で実施している作業を置き換える事で生産性の向上や人手不足の解消につなげることができます。
そこで気になるのが、「どちらのツールを導入すればいいのか」だと思います。
そこで、はじめにRPAとマクロの具体的な違いについて解説していきます。
RPAとは
RPAとは「Robotic Process Automation」の略で「ロボットによる業務の自動化をシステム」のことです。
今まではオフィスで実施しているような事務作業を人の手で実施してきましたが、ソフトウェア技術の進歩により人の手で実施してきた定型作業を自動化する手法が生まれました。
RPAはソフトウェアロボットに手順を覚えさせ、パソコンで実施しているさまざまな作業を自動化することができます。
マクロとの違いは「システムやアプリケーションを横断的に自動化」でき「プログラミング知識を必要とせず」使用できるツールである点です。
マクロとは
マクロとは、繰り返し使用する複数の操作や命令などを1つにまとめ、必要に応じ呼び出せるようにした機能のことを言います。
一般的な企業で使用されているマクロの多くは「Excelマクロ」です。
VBAと呼ばれるプログラミング言語を使用し、エクセル上にあるデータを使って伝票を作成したり、自動でグラフなどを作成したりといったことが可能になります。
RPAとの違いは「自動化の範囲がOfficeアプリケーションに特化」していて、「VBAというプログラミング言語の習得が必要」な所です。
RPAの特徴と向いている業務
次に各ツールの特徴と向いている業務について紹介します。
向いている業務については一例ですが、関連している似たような業務であれば適用できると思います。
1つのアイデアとして参考にして頂ければ幸いです。
RPAの特徴
まずは、RPAの特徴を解説していきます。
特徴①適用できる範囲
RPAはパソコン内で操作できる全てのソフトウェアに対して自動化を適用できます。
例えば自社で開発した独自のWEBシステムに対しても、互換性があれば自動化の対象とすることができます。
また、自社のシステムからデータを取得しをExcelに貼り付け、対象メンバーへメール送信など「複数のアプリやソフトを横断して」自動化を適用することができます。
特徴②プログラミングの知識
RPAはツールの種類にもよりますが、VBAなどのプログラミング知識を必要とせずに開発できるものが多いです。(ノーコード開発)
また、ツールによっては作業手順をシナリオ化して設定してくれるものもあるため、プログラミングの知識がなくても使用できます。
ただし、複雑な作業を自動化するときは準備されているテンプレートでは対応できないケースもあるため、プログラミングの知識があることで開発しやすくなる場合もあります。
特徴③導入難易度やコスト
RPAはさまざまなベンダーからツールが販売されていて、ライセンスを購入し設定することで導入が完了します。
導入形態としてデスクトップ型、サーバー型、クラウド型に分かれていて、費用はデスクトップ型やクラウド型で数十万円~数百万円、サーバー型で数百万円~程度かかります。
デスクトップ型やサーバー型については構築作業を伴いますので、導入難易度は少し高めです。自信がない場合はベンダーの導入支援サービスを利用しましょう。
クラウド型に関しては、ベンダーから届いたURLにアクセスしアカウント設定する事で利用開始できるケースが多いため、導入難易度は低く利用しやすいです。
自社の自動化を適用する規模によって費用は変わってきますが、自動化できる範囲が広いためコストはある程度かかります。
特徴④その他
RPAはスケジュールを設定しておけば自動実行する機能が備わっていることが多いです。
勤務開始と同時に必要なデータがある場合、出勤前に実行完了するようにスケジュール予約しておけば出社後すぐに対応が開始できます。
また、RPAは大量のデータを処理することに長けているため、定型作業の中でも繰り返し同じことを行う業務に強いというメリットがあります。
RPAに向いている業務と理由
①請求書の発行処理と送付プロセスの自動化
企業が商品やサービスの提供を行った際に発行する請求書の処理と送付を行うような業務を自動化できます。
請求書の作成時に顧客・商品・価格情報など複数のデータソースを参照し、送付時もメールソフトを使用し処理する必要があるため、自動化には複数のシステムを横断的に連携できるRPAが向いています。
②在庫管理と発注プロセスの自動化
企業が商品や資材の在庫管理と発注を行うような業務で、RPAであれば在庫状況を監視し、事前に設定したしきい値に達した場合に自動的に発注を行うようなプロセスを設定することが出来ます。
また、在庫管理と発注にはERPシステム、在庫管理システム、発注システムなど複数のシステムへアクセスし対応が必要になるため、横断的に対応できるRPAが向いています。
RPAの弱み
①画面の変更や仕様変更が頻繁に行われるシステムに弱い
RPAは事前に定義されたルールや手順に基づいて業務を自動化しているため、設定していた画面に違いがあるとエラーが発生します。
頻繁に画面変更が発生するシステムへの自動化適用は控える方が賢明です。
一時的には良いですが結果的に工数がかかってしまいます。
②ブラックボックス化する可能性がある
ロボット開発者が運用も担当している場合は問題ないですが、担当者が異動や退職時にしっかりと引継ぎをしていないと、何をしているRPAなのかが不明になり想定していないエラーへと繋がってしまう可能性があります。
ロボット開発担当者がしっかりと仕様書を作成しておき、メンテナンス時も必ず更新するというルールを徹底し担当変更時は引継ぎを行うことで回避できます。
Excelマクロの特徴と向いている業務
ここでは、Excelマクロの特徴や向いている業務、弱みなどを解説していきます。
Excelマクロの特徴
まずはExcelマクロの特徴を確認していきましょう。
特徴①適用できる範囲
ExcelマクロはOfficeアプリケーション内の操作を自動化できます。
例えばフォーマットが一定の請求書作成処理であれば、Excelで作成された売上管理表から顧客ごとや月ごとにデータを取得し請求書の作成が可能です。
また、Outlookを利用して定型文のメール送信なども行えます。
RPAとは違い、システムやアプリを横断した自動化はできませんが、Officeアプリケーションとの親和性が高いため、VBAでプログラミングすることで効率的な自動化を行うことができます。
特徴②プログラミングの知識
マクロではVBAというプログラミング言語を使用し、コードで実行したい動作を書くことによって処理を自動化できます。
そのため、マクロを扱うにはVBAのプログラミング知識が必須になります。
VBAの習得には個人差がありますが、6か月~1年ぐらいが目安ですが、VBAに関する情報はインターネットに無数にあるため、情報を確認しながら独学で少しずつ自動化を進めていくケースもあります。
特徴③導入難易度やコスト
RPAと違い、マクロはExcelに元から搭載されている機能なため、追加でツールを導入する必要はありません。
Excelを導入済みであれば追加で費用はかけずにマクロを使用できます。
IT投資にそこまで費用をかけられない場合は、マクロの導入も検討しましょう。
特徴④その他
簡単な作業であれば「マクロを記録」機能を使用して自動化することもできます。
また、普段からExcelを利用しているのであれば他ツールを導入するよりも馴染みがあるため、自動化を進めるときに抵抗感が少ないです。
マクロに向いている業務と理由
①レポートフォーマット整形と作成
営業やマーケティング部門で行われる報告レポートの作成に関する業務で、マクロであれば複数のデータソース(Officeアプリケーション内)からデータを取得しレポート作成や整形の自動化が行えます。
また、Officeアプリケーションで作成されたレポートの整形作業(ヘッダーの塗りつぶしや列・行幅の調整など)については、Microsoftと親和性の高いマクロが得意としている分野です。
②テンプレートファイルを利用した文書生成
企業内で発生する様々な文書の作成に関する業務です。
マクロは企業でよく使用されているOfficeアプリケーションと親和性が高いため、各種文書の自動化に向いています。
マクロの弱み
RPAとは違い基本的にマクロではスケジュール実行は出来ません。
タスクスケジューラーを使用し決まった時間にマクロを実行することも可能ですが、単体の機能としてスケジュール実行は存在しません。
また、自動化の適用範囲はOfficeアプリケーション内の操作に限られるため、それ以外の複数システムを横断的に自動化することは出来ないです。
2つツールの共通点
RPAとマクロの特徴や違いについて解説してきましたが、共通している部分もあります。
定型作業が得意、非定型作業が苦手
自動化を行う際に作業手順をRPAやマクロに対して覚えさせる必要があるため、あらかじめ決まっている定型作業をを自動化するのか得意です。
ただしデメリットとしては、人間の判断が必要だったり処理ごとに対応方法に違いがある非定型作業は苦手です。(技術の進歩により、だんだんと対応できる範囲が広くなってきています)
ミスを削減できる
覚えさせた手順に誤りがなければ、決まった通りに実行されるためヒューマンエラーが原因となるようなミスを削減することができます。
また、ミスが削減されることで今まで時間のかかっていたミスに関するヒアリングや分析、対応策の策定も含めて時間削減することができます。
メンテナンスが必要
覚えさせた画面がシステムのバージョンアップなどで変更になった場合は、覚えている画面と状態が変わってしまうことでエラーとなってしまいます。
そのため、あらかじめメンテナンスをして修正する必要があります。
RPAとマクロどちらを導入すべき?
ここまで、RPAとマクロの違いや共通点について解説してきましたが、はたしてRPAとマクロのどちらを導入すれば正解なのでしょうか。
それは「どんな業務を自動化したいと考えているか」によって変わってきます。
いろんなシステムを横断した業務の自動化を行いたい場合はRPAが向いていますし、Officeアプリケーション中心に実施している業務であればマクロが向いています。
RPAとマクロは、どちらもパソコン上の作業を自動化し業務効率化できるツールなため、自動化したいと考えている業務プロセスによって導入するべきツールは変わってきます。
大事なのは「導入する」ことではなく「業務効率化を図る」ことですので、まずは自動化したい業務の洗い出しを実施し自動化すべき処理や、データ量を見える化して自社にあったツールを選定しましょう。
次はツールを選定する際に、考慮しておくべきポイントについて解説します。
ツール導入の際に確認すべきポイント
少しずつ自動化したい業務や導入したいツールのイメージは膨らんできましたでしょうか。
次は、そのツールを導入するタイミングで確認しておくべきポイントについて比較しながら解説していきます。
運用方法の比較
RPAを運用する場合は、特定の部署や選任チームを選出し運用することが多いです。
専任チームで開発を請け負い、新規ロボットの開発や既存ロボットの一元管理を実施します。
またツールにも稼働状況などを一覧で確認できる機能がついているケースがあるため、比較的管理しやすいです。
一方、マクロは各部署ごとに開発を行いスモールスケールでの管理が多いです。
その為、メンテナンスが発生した場合は、マクロ開発をした担当がメンテナンスをします。
学習などのトレーニング環境の違い
RPAは製品によって違いがありますが、ベンダーからe-lerningなどのトレーニング環境や資料が準備されていることが多いです。
無料で視聴できる動画サイトなどもあるため、学習しやすい環境が整えられているといえます。
マクロはMicrosoftから公式で学習環境は提供されていないため、独学で外部スクールなどを利用し学習する必要があります。
ただし、マクロは費用がかからないため少しずつでも学習して効率化を進めたい方には向いています。
サポート体制の違い
RPAはベンダーのサポート体制として、技術的な質問を受け付けるメールやチャットのサポート、導入支援、技術者派遣などのサポート体制があります。
マクロに関しては公式に質問を受け付ける場所はありませんが、Microsoftサポートサイトが準備されており基本的なマクロ開発方法については展開されています。
非定型業務の自動化
非定型業務の自動化はRPA、マクロ共に苦手な分野になります。
ただし、RPAに関しては紙データを読み取るOCR技術やAI技術などが進歩しており対応できる業務が増えてきているため、今後非定型な業務に対応できる可能性はあります。
非定型業務で今後自動化をしたい業務がある場合は、導入予定のツールで対応できるのかを確認しておきましょう。
自動化の適応範囲について
今後、自動化を適用していく範囲について検討しておく必要があります。
範囲を拡大していく予定なのであれば、はじめから大規模な自動化に向いているRPAを導入する方が結果的なコストが抑えられ効率が良いケースもあります。
それぞれの違いを良いとこ取りする
ここまでは、RPAとマクロの違いについて解説してきましたが、業務効率化を検討する場合は「RPAとマクロの良い所どり」するという活用もおすすめです。
RPAであればOfficeアプリケーションの自動化も可能ですが、親和性の高いマクロを使用する方が素早く処理が行え効率的なケースもあります。
例えば、すでにレポート用として関数などが組まれているExcelファイルがあり、そこへ別ファイルから毎月必要なデータを転記する作業について、RPAで自動化する場合は転記先のファイルに関数が含まれていることで時間がかかってしまうケースがあります。
そういったケースでは、ファイルのダウンロードや結果メールの送信などはRPAに任せて、データの転記はマクロで実施するという使い分けをすることで効率的な自動化が行えます。
2つのツールを使うことで管理する項目は増えますが、目的とする業務効率化に対してはプラスに働くためバランスを見ながら併用も検討しましょう。
記事まとめ
今回はRPAとマクロの違いや、導入時に確認すべきポイントについて解説しました。
RPAとマクロはどちらも業務効率化に有効な手段です。
しかし、両者には自動化できる業務の範囲や種類、コストや利用難易度など違う部分も存在するため、自動化したい業務にあったツールを選択しましょう。
もし、何から始めたら良いか迷われている場合は、まず社内で実施している業務を整理するところからはじめてみるのも良いと思います。
それだけで、気づけなかった不要なフローを発見したりなど、業務効率化や生産性向上に繋がる可能性があります。
この記事を見ている時点で業務効率化はスタートしていると思いますので、目標とする効率化へのアイデアがお渡しできていれば幸いです。