労働人口不足や働き方改革といった流れから、生産性の向上が企業の必須項目となっていますが、そんな課題を解決するツールとして注目されているのが「RPA」です。
そんなRPAですが、導入は検討しているけど「どんな業務が自動化できるかわからない」や「どんな効果があるのかイメージができない」という担当者も多いのではないでしょうか。
今回の記事では「RPAとはどんなツールなのか」という基礎的な情報から「自動化できる身近な例」や「RPAを導入する効果」について解説していきます。
業務の事例については「業務別」に紹介していますので、参考になれば幸いです。
単純作業を自動化してくれるテクノロジー
RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称です。
特徴としては、デスクトップPC上で実施するようなルーチンワークを「素早く」「休まず」「ミスなく(正確に)」自動化することが可能です。
そのことから、RPAが適用される業務の多くは、人であれば疲れや慣れからヒューマンエラーの発生リスクのある単純作業や、膨大なデータを使って処理するような業務などに活用されています。
RPAを活用することで、今までは不足していたリソースが新たに創出され、売上に繋がるような「戦略的な業務へ注力」できるような効果が期待できます。
一方では、RPAと似ている自動化技術として「マクロ」が事例として挙げられることがありますが、マクロは基本的に「Microsoft Office製品」を対象とした自動化を得意としているため、RPAのように自社の基幹システムを使った自動化や、kintoneなどの業務アプリと連携した自動化はできません。
そのため、Microsoft Office製品の自動化はマクロに任せ、それ以外の処理フローはRPAで開発するといったハイブリッドな業務効率化を図っている事例もあります。
他にもRPAは、人が処理している作業を置き換えられることから「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」と呼ばれることもあり、身近な業務を中心に自動化できる強力なツールです。
【業種別】自動化を活用できる身近な例6選
RPAの導入により自動化できる業務の事例を挙げて、具体的に解説していきます。
業種別に事例を紹介していますので、担当している業務に近いものを確認し、参考にしていただければ幸いです。
身近な事例① 納品書の作成業務(製造業)
生産管理部門で実施している業務として、受注データを社内システムに取り込み、納品書を作成する作業について、自社で製造している部材の種類も多くデータの取り込みや納品書の作成時に「ヒューマンエラーが発生するリスク」がありました。
また、ヒューマンエラーが発生時は「製品の納入が遅れる」といった致命的な問題が発生したり、ヒューマンエラーの分析に時間を割く必要がでてきたりなど、不要な工数がかかっている状況でした。
そこでRPAを導入し、各作業の自動化を実施しました。
- Webサイトから受注データをダウンロードする
- ダウンロードしたデータを自社システムに登録する
- 納品書作成に必要なデータを自社システムからデータを抽出・転記し納品書作成する
- 作成された納品書を印刷する
このように、一連の作業を自動化したことにより、年間200時間の余剰時間の創出に成功しています。
また、自動化したことでロボットが正確に処理を進めてくれるため、ヒューマンエラーが発生するリスクが大幅に低減し、ストレスなく作業に集中できるようになりました。
身近な事例② データの照会業務(金融業)
税務署から依頼される請求や入金といった履歴を確認する取引情報照会について、基幹システムにある対象のデータをチェックし、確認した結果を税務署担当者に返答するといった業務について、税務署からの依頼件数も多く、人海戦術で対応を進めていたが、依頼を迅速に対応できていないという状況がありました。
そこでRPAを導入し、各作業の自動化を実施しました。
- 依頼された取引情報照会について、基幹システムから該当の取引を検索する
- 該当の情報を抽出し、税務署からの情報と照会し、一致状況を確認する
- 確認した結果を、関係者や税務署担当者に報告する
RPAにて一連の作業を自動化したことにより導入効果として、人手が足りず未処理となっていた照会依頼を2ヶ月で0件にすることができたり、年間3500時間以上の余剰時間を創出することに成功しています。
また、該当業務を担当していた人員を減らし、人手が必要な他の部署に配置転換を行うことが可能となりました。
身近な事例③ 申請書の登録業務(保険業)
保険の契約事務として申込情報が記載されたファイルからデータを転記し、社内システムに登録する作業について、通常時にも多くの時間を使って処理していた業務ですが、ピーク時には申込件数が増加し人海戦術でなんとか処理しているといった状況でした。
そこでRPAを導入し、申し込み情報を自動で社内システムに登録するロボットを 開発した結果、大幅な業務効率化となり新たなリソースの創出ができるようになりました。
また、ピーク時にも人海戦術で対応する必要がなくなったため、コスト削減にも繋がっています。
他にも、申込情報を手作業でシステムに登録している支社は他にもあるため、この事例をベースに全国の支社へ展開することによって、全社的な生産性の向上に繋げることが可能となっています。
身近な事例④ 物件情報の登録業務(不動産業)
自社で管理している物件情報を更新するといった業務を手作業で実施しており、作業には10分〜15分程度時間かかり、更新件数の多さや更新頻度を考えると単純作業ではあるものの工数のかかる作業でした。
また、更新を誤ってしまうと間違った情報で物件を紹介してしまう可能性があるため、プレッシャーのかかる作業でもあります。
そういった課題を解決すべくRPAを導入し、最新の物件情報チェックから自社システムへの登録、登録内容のチェックまでを自動化し、一連の作業をロボットにて置き換えることができました。
その結果、出社したタイミングで最新の物件情報を確認することが可能で、朝に実施していた更新作業分のリソースを、戦略的な業務に充ててるなど「有用な時間の使い方」ができるようになりました。
この事例については、ほかの店舗でも取り上げられ自動化が推進されています。
身近な事例⑤ 短期滞在患者リストの作成業務(医療/福祉)
バックオフィス業務の一つとして看護部門実施している、短期滞在患者のリストを作成する業務について、作業担当者は2つのシステムから対象のデータをダウンロードし突合した上で、該当のリスト作成を行っていましたが、件数が多く膨大な時間がかかっていました。
また、長時間作業をするため、集中力の低下などからリスト突合時のミスや、転記ミスといったヒューマンエラーが発生していました。
そこでRPAを導入し、医療事務システムと医療事務データベースの2つのシステムから、短期滞在手術などの対象患者データを出力、その各データを突合する作業と短期滞在患者リストを作成する作業に対し自動化を適用しました。
その結果、年間100時間以上の余剰時間を創出できたことや、リスト作成におけるヒューマンエラーについても低減し、業務全体の効率化に繋がっています。
身近な事例⑥ 自社サイトの更新業務(サービス業)
自社サイトで販売している航空券の価格について、他店よりも安く提供するため、他社サイトの価格をチェックし、自社サイトの価格を手動で修正する業務を行っていましたが、修正作業には多大な工数がかかり、人の手ではリアルタイムにすべての商品を更新することは不可能という状況がありました。
そこでRPAを導入し、自社で扱っている商品を競合他社のサイトで検索し、自社サイトの方が高い場合、価格を安く変更するような作業の自動化を実現しました。
その結果、自社サイトを経由した申込数が従来の2.5倍と収益が増大したことや、サイト確認時に他社の動きが把握できるため、戦略の分析にも繋げることができるようになりました。
RPAに人の仕事は奪われない!導入の効果
RPAは業務を自動化するツールとして注目を集めていますが、同時に「RPA=人の雇用を奪う存在」と一部で大きな誤解が生まれている現状があります。
上記でご紹介した事例もそうですが、RPAは「単純作業」や「ルーチン作業」といった「一定のルールに従った業務」の自動化については得意としています。
しかし「複雑な判断が必要な業務」や「分岐が多く存在する業務」の自動化については不得意です。
そのため、RPAは人が実施している全ての業務を自動化することは不可能で「属人化している業務」や「ヒューマンエラーの発生リスクの高い繰り返し業務」などの業務に対し自動化を適用することになります。
そういったことから、RPAは「人の作業を奪う」ツールではなく、業務を置き換えたことによって創出されたリソースを「人が実施すべきコアな業務」に割り当て、生産性の向上に繋げられるようにすることを目的としています。
その目的を達成することによって得られる効果が他にもありますので、今回は5つ挙げて解説します。
業務品質の向上
人が作業をする場合、どんなに熟練者だったとしても、その日の体調や心理的な影響によってヒューマンエラーを発生させてしまう可能性があります。
また、単純な作業を繰り返し行うような作業の場合、集中しつづけるのが難しく、うっかりミスしてしまうこともあると思います。
しかし、RPAには体調不良などの品質を落としてしまうような影響がありませんので、設定された作業手順に沿って、ミスなく完了させることが可能です。
その結果、同じ作業を何度繰り返し実施しても、同品質で成果物を作成することができるため、業務品質を向上させることができます。
コスト削減
今まで人が実施していた作業をRPAにを活用し代行させることで、その作業に割いていた労働時間を削減することが可能です。
また、繁忙期と閑散期があるような業務の場合には、ピーク時を乗り越えるための人材を確保しておく必要がありますが、RPAで業務を置き換えるとそういった負担も減ることからコスト削減へ繋げることが可能になります。
処理スピードの向上
RPAは設定された作業をスピーディーに完了させることが可能です。
そのため、ローンの審査や、高い頻度で成果物を作成するような「提供ピード」が満足度へ直結する業務の場合、RPAを活用することで提供までの対応スピードが短縮でき、顧客満足度の向上に繋げることができます。
他にもメリットとして、一つひとつの作業スピードが上がることにより、新たにリソースが創出されるため、今までは注力できなかった作業改善にも着手でき、全体的なサービス品質の向上も期待できます。
働き方改革の推進
少子高齢化による労働力不足を背景に働き方改革が進められていますが、目的としては「従業員が働きやすい環境を整備」することになります。
そんな中、RPAを活用することで、従業員の労働時間短縮に貢献できたり、業務プロセスを見直すことによる生産性の向上へと繋げることができます。
そうして、空いたリソースを有効活用し、充実した環境整備へと注力することが可能になります。
エンゲージメントの向上
業務の中には、対応できていない方に注意したり、従業員の給料に関わる業務があったりと精神的にもプレッシャーのかかる業務が多く存在します。
そういった業務をRPAで自動化することで、時間の短縮やコスト削減につながるだけではなく、担当者がプレッシャーから解放されるため、エンゲージメントの向上に繋げることができます。
RPA導入の身近な例に関する記事のまとめ
今回の記事では、RPAを導入することで自動化できる身近な業務や、その効果について解説をしました。
RPAはどんなことができるのか知らないと、取り扱いが難しそうなツールと思われてしまいますが、身近にある業務に「どう適用するのか」を知ることで、検討しやすくなるのではないしょうか。
自社業務の中に「単純な作業だがプレッシャーがかかる業務」や「頻度の高い定型業務」などがあれば、今回の記事を参考にしながら適用できそうな業務を見つけていただければ幸いです。
また、RPAは人の業務を奪うことを目的としているわけではなく、人が売上戦略などのコアな業務に注力できるようルーチンワークを代行してくれる担当者です。
上手にRPAを活用し、業務効率化や生産性の向上に繋がれば幸いです。
また、次の記事ではおすすめのRPA製品11選を紹介しているのでRPAの導入を検討している方はぜひご覧ください。