DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、データやデジタル技術の活用によって、業務内容やビジネスモデル、企業文化などを変革すること。
企業はDX推進によって変わる市場や社会の流れに対応し、生産性を向上させ、競争優位性を高めるために必要です。
そんなDX推進にかかわる資金繰りには、国や自治体の補助金・助成金が役立ちます。補助・助成を受けることで、ITツールの導入にかかる資金面の負担を和らげることが可能です。
そこでこの記事では、DX推進に役立つ補助金・助成金を7種類以上紹介します。活用できそうな制度がないか、ぜひ一度ご確認ください。
DX推進に役立つ補助金・助成金7選
DX推進にかかる資金繰りに役立つ補助金・助成金は、主に以下の7種類です。
1. IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が、経営課題の解決に向けて導入するITツールの経費を一部補助する制度です。通常よりも割安な費用でDX推進を実現し、業務効率化や生産性向上、セキュリティ強化などを目指せます。
IT導入補助金では、DX推進につながるソフトウェアのほか、要件を満たせばセキュリティサービスやハードウェアの費用も申請可能です。
さらに補助下限が5万円(デジタル化基盤導入枠は下限なし)と低いので、小規模のデジタル化でも利用できます。
なお、注意点として、IT導入補助金の交付を受けられるのは、事務局に登録されたIT導入支援事業者のITツールを使う場合に限ります。
対象となるIT導入支援事業者およびITツールは、事務局公式サイトの「IT導入支援事業者・ITツール検索」でご確認ください。
DX推進に役立つこの補助金の基本情報
通常枠
種類 | A類型 | B類型 |
---|---|---|
補助額 | 5万〜150万円未満 | 150万〜450万円以下 |
補助率 | 1/2以内 | 1/2以内 |
賃上げ目標 | 加点 | 必須 |
補助対象 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費 |
セキュリティ対策推進枠
種類 | セキュリティ対策推進枠 |
---|---|
補助額 | 5万〜100万円 |
補助率 | 1/2以内 |
機能要件 | 独立行政法人情報処理推進機構が公表する「サイバーセキュリティ対策サービスリスト」に掲載されているいずれかのサービス |
補助対象 | サービス利用料(最大2年分) |
デジタル化基盤導入類型
種類 | デジタル化基盤導入類型(〜50万円) | デジタル化基盤導入類型(50万円超〜) |
---|---|---|
補助額 | (下限なし)〜50万円 | 50万円超〜350万円 |
機能要件 | 会計・受発注・決済・ECのうち1機能以上 | 会計・受発注・決済・ECのうち2機能以上 |
補助率 | 3/4以内 | 2/3以内 |
対象ソフトウェア | 会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト | 会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト |
賃上げ目標 | なし | なし |
補助対象 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費 | ソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)・導入関連費 |
ハードウェア 購入費 |
PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機:補助率1/2以内、補助上限額10万円 |
---|---|
レジ・券売機等:補助率1/2以内、補助上限額20万円 |
※グループでDX推進を行う「複数社連携IT導入類型」については割愛。申請希望者は本補助金の公募要領等を確認のこと。
2. 小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、さまざまな制度変更等に対応するため、販路開拓や業務効率化に取り組む小規模事業者を支援する仕組み。物価高騰やインボイス制度、賃上げなどへの対応が想定されています。
商業・サービス業であれば常時使用する従業員5人以下、その他業種では20人以下の小さな企業や個人事業主などが対象です。
小規模事業者持続化補助金の特徴は、補助対象経費の範囲が広くこと。機械装置等費のほか、ウェブサイト関連費や設備処分費、外注費など、DX推進にかかるさまざまな経費について補助を受けられます。
DX推進に役立つこの補助金の基本情報
類型 | 通常枠 | 賃金引上げ枠 | 卒業枠 | 後継者支援枠 | 創業枠 |
---|---|---|---|---|---|
補助率 | 2/3 | 2/3(赤字事業者は3/4) | 2/3 | 2/3 | 2/3 |
補助上限 | 50万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 |
インボイス特例 | 要件を満たした事業者は上記各枠の補助上限に50万円を上乗せ |
---|
補助対象経費 | ①機械装置等費、②広報費、③ウェブサイト関連費、④展示会等出展費(オンラインによる展示会・商談会等を含む)、⑤旅費、⑥開発費、⑦資料購入費、⑧雑役務費、⑨借料、⑩設備処分費、⑪委託・外注費 |
---|
3. ものづくり補助金
ものづくり補助金は、革新的なサービスや試作品を開発したり、生産プロセスを改善したりして生産性向上を目指す中小企業等を支援する事業です。
働き方改革や社会保険の適用拡大、賃上げ、インボイス制度などへの対応が念頭に置かれています。前項の「小規模事業者持続化補助金」の大規模バージョンといったイメージです。
ものづくり補助金の魅力としては、通常枠で最大1,250万円と補助上限額が大きいことが挙げられます。DX推進に特化した「デジタル枠」もあり、デジタル化の取り組みに対して手厚い補助が受けられます。
また機械装置・システム構築費のほか、技術導入費、専門家経費など、DX推進にかかる幅広い経費が対象であることも特徴です。
DX推進に役立つこの補助金の基本情報
通常枠
補助金額 | 従業員数5人以下 :100万円~750万円/6人~20人:100万円~1,000万円/21人以上 :100万円~1,250万円 |
---|---|
補助率 | 1/2、小規模企業者・小規模事業者、再生事業者 2/3 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠
補助金額 | 従業員数5人以下 :100万円~750万円/6人~20人:100万円~1,000万円/21人以上 :100万円~1,250万円 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
デジタル枠(DX推進に特化)
補助金額 | 従業員数5人以下 :100万円~750万円/6人~20人:100万円~1,000万円/21人以上 :100万円~1,250万円 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
グリーン枠
補助金額 | (エントリー類型)従業員数5人以下 :100万円~750万円/6人~20人:100万円~1,000万円/21人以上 :100万円~1,250万円 (スタンダード類型)従業員数5人以下 :750万円~1,000万円/6人~20人:1,000万円~1,500万円/21人以上 :1,250万円~2,000万円 (アドバンス類型)従業員数5人以下 :1,000万円~2,000万円/6人~20人:1,500万円~3,000万円/21人以上 :2,000万円~4,000万円 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
グローバル市場開拓枠
補助金額 | 100万円~3,000万円 |
---|---|
補助率 | 1/2、小規模企業者・小規模事業者 2/3 |
大幅賃上げに係る補助上限額引上の特例
大幅な賃上げに取り組む事業者は、下記の通り、補助上限額を引き上げ
補助上限額の引き上げ額 | 従業員数 5 人以下 :各申請枠の上限から最大 100万円引き上げ/6人~20人:各申請枠の上限から最大 250万円引き上げ/21人以上 :各申請枠の上限から最大1,000万円引き上げ |
---|
本補助金の補助対象経費(全枠共通)
補助対象経費 | 機械装置・ システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費 |
---|
グローバル市場開拓枠では上記に加えて「海外旅費」「通訳・翻訳費」「広告宣伝・販売促進費」も対象
4. 事業再構築補助金
事業再構築補助金は、コロナ禍による需要減・売上減なども踏まえ、思い切った事業再構築を志す中小企業等を支援する事業です。
DX推進によって新市場への進出や事業・業種の転換など、大規模な変革を目指す場合に役立ちます。
事業再構築補助金の特徴は、基本となる成長枠で最大7,000万円と、補助金額がとりわけ大きいことです。ビジネスモデルや企業文化を一新するような大胆なDX化に活用すると良いでしょう。
この補助金についても補助対象経費が多様で、DX推進にかかるいろいろな経費について支援を受けられます。
DX推進に役立つこの補助金の基本情報
成長枠
補助金額 | 【従業員数 20人以下】 100万円 ~ 2,000万円 【従業員数 21~50人】 100万円 ~ 4,000万円 【従業員数 51~100人】 100万円 ~ 5,000万円 【従業員数 101人以上】 100万円 ~ 7,000万円 |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 1/2 (大規模な賃上げを行う場合は 2/3) 中堅企業等 1/3 (大規模な賃上げを行う場合は 1/2) |
補助対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門 家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、 広告宣伝・販売促進費、研修費 |
グリーン成長枠
補助金額 | (エントリー)中小企業者等【従業員数 20人以下】100万円 ~ 4,000万円 【従業員数 21~50人】100万円 ~ 6,000万円 【従業員数 51人以上】100万円 ~ 8,000万円中堅企業等 100万円 ~ 1億円(スタンダード)中小企業者等 100万円 ~ 1億円 中堅企業者等 100万円 ~ 1.5億円 |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 1/2 (大規模な賃上げを行う場合は 2/3) 中堅企業等 1/3 (大規模な賃上げを行う場合は 1/2) |
補助対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、 広告宣伝・販売促進費、研修費 |
卒業促進枠
補助金額 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 1/2 中堅企業等 1/3 |
補助対象経費 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる |
大規模賃金引上促進枠
補助金額 | 100 万円 ~ 3,000 万円 |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 1/2 中堅企業等 1/3 |
補助対象経費 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる |
産業構造転換枠
補助金額 | 【従業員数 20人以下】 100万円 ~ 2,000万円 【従業員数 21~50人】 100万円 ~ 4,000万円 【従業員数 51~100人】 100万円 ~ 5,000万円 【従業員数 101人以上】 100万円 ~ 7,000万円 ※廃業を伴う場合には、廃業費を最大 2,000万円上乗せ |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 2/3 中堅企業等 1/2 |
補助対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、 広告宣伝・販売促進費、研修費、廃業費 |
最低賃金枠
補助金額 | 【従業員数 5人以下】 100万円 ~ 500万円 【従業員数6~20人】 100万円 ~ 1,000万円 【従業員数 21人以上】 100万円 ~ 1,500万円 |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 3/4 中堅企業等 2/3 |
補助対象経費 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる |
物価高騰対策・回復再生応援枠
補助金額 | 【従業員数 5人以下】 100万円 ~ 1,000万円 【従業員数6~20人】 100万円 ~ 1,500万円 【従業員数 21~50人】 100万円 ~ 2,000万円 【従業員 51人~】 100万円 ~ 3,000万円 |
---|---|
補助率 | 中小企業者等 2/3(要件を満たせば3/4) 中堅企業等 1/2(要件を満たせば2/3) |
補助対象経費 | 成長枠・グリーン成長枠に準じる |
※サプライチェーン強靱化枠については割愛。申請希望者は本補助金の公募要領等を確認のこと。
5. キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善に取り組んだ事業者を助成する事業です。
DX推進に直接は関係ありませんが、DX推進に向けたIT人材の確保や補助金の申請要件を満たすための賃上げなどに活用できます。
キャリアアップ助成金の支給額は下記の通りです。こちらは補助金でなく助成金なので、審査で事業者が厳選されるわけではなく、基本的に要件を満たした事業者全てが支給を受けられます。
DX推進に役立つ本助成金の支給額等
正社員化コース
1. 支給額(1人あたりの助成額)
企業規模/正社員化前雇用形態 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
中小企業 | 57万円 | 28万5,000円 |
大企業 | 47万7,500円 | 21万3,750円 |
2. 加算額(1人あたりの加算額)
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
①派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用 | 28万5,000円 | 28万5,000円 |
②対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父 | 95,000円 | 47,500円 |
③人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化 | 95,000円 | 47,500円 |
うち、自発的職業能力開発訓練または 定額制の訓練修了後に正社員化 |
11万円 | 55,000円 |
④「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を 新たに規定し、当該雇用区分に転換等 |
95,000円 (大企業71,250円) |
95,000円 (大企業71,250円) |
賃金規定等改定コース
1. 支給額
企業規模/賃金引き上げ率 | 3%以上5%未満 | 5%以上 |
---|---|---|
中小企業 | 5万円 | 6万5,000円 |
大企業 | 3万3,000円 | 4万3,000円 |
2. 加算額
企業規模 | 職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合 |
---|---|
中小企業 | 20万円 |
大企業 | 15万円 |
賃金規定等共通化コース
企業規模 | 支給額 |
---|---|
中小企業 | 60万円 |
大企業 | 45万円 |
賞与・退職金制度導入コース
支給額
企業規模/制度 | 賞与又は退職金制度を導入 | 賞与並びに退職金制度を同時に導入 |
---|---|---|
中小企業 | 40万円 | 56万8,000円 |
大企業 | 30万円 | 42万6,000円 |
短時間労働者労働時間延長コース
支給額
①週所定労働時間を3時間以上延長し、新たに社会保険に適用
企業規模/延長時間 | 3時間以上延長 |
---|---|
中小企業 | 23万7,000円 |
大企業 | 17万8,000円 |
②労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長するとともに基本給を昇給し、新たに社会保険に適用
企業規模/延長時間 | 1時間以上2時間未満延長 (10%以上増額) |
2時間以上3時間未満延長 (6%以上増額) |
---|---|---|
中小企業 | 5万8,000円 | 11万7,000円 |
大企業 | 4万3,000円 | 8万8,000円 |
6. 副業・兼業支援補助金
社員の副業・兼業を認めるための体制整備に向けてDX推進に取り組む場合、副業・兼業支援補助金が使えます。副業・兼業支援補助金は、副業・兼業人材の送り出しおよび受け入れの準備をする企業を支援する事業です。
具体的には送り出しまたは受け入れにかかる専門家経費やクラウドサービス利用費などが補助されます。
DX推進関連では、副業・兼業促進のために業務システムを導入したり、機能拡張したりする場合に補助を受けられる可能性があります。
DX推進に役立つこの補助金の基本情報
類型A 副業・兼業送り出し型 | 類型B 副業・兼業受け入れ型 | |
---|---|---|
補助率 | 2分の1以内 | 2分の1以内 |
補助上限額 | 1事業者あたり100万円 | 副業・兼業の人材1人あたり50万円 1事業者あたり250万円(5人まで) |
補助対象経費 | ①専門家経費 ②研修費 ③クラウドサービス利用 | ①仲介サービス利用料 ②専門家経費 ③旅費 ④クラウドサービス利用費 |
7. 地方自治体の補助金・助成金
ここまで紹介したのは、主に国が実施するDX推進関連の補助金・助成金ですが、国だけでなく各地方自治体でもさまざまな支援事業が行われています。
そのため、事業所のある自治体でもDX推進に使える補助金・助成金がないかぜひ探してみてください。
ちなみに代表的なところでは、下記のような補助金・助成金事業が行われています。
自治体が実施する主なDX推進関連の補助金・助成金事業一覧(例)
- 札幌市 DXモデル創出補助金
- 福島県 福島県建設DX人材育成支援事業補助金
- 東京都 サイバーセキュリティ対策促進助成金
- 大阪府 大阪府スマートシティ戦略推進補助金
- 北九州市 中小企業技術開発振興助成金
DX推進のための補助金の交付を受けるまでの流れ
DX推進に補助金を活用する際の流れはおおむね下記の通りです。
- 公募要領の内容に沿って交付申請を行う
- 交付申請の審査が行われ、採択・交付が決定する
- 補助対象事業(DX推進)を実施する
- 事業修了後、事業実績を報告する
- 報告書に基づき確定審査が行われ、補助金額が決定する
- 請求書を提出後、補助金が振り込まれる
DX推進に補助金を活用する際の注意点としては、補助金が後払いであることが挙げられます。
交付決定から事業実施(DX推進)に数ヶ月。補助金額の確定後、請求から振込までにも1ヶ月ほどかかります。
そのため、DX推進が会社の財務を圧迫することがないよう、健全な資金計画を立てて取り組む必要があります。
まとめ:DXに補助・助成金を活用しよう!
補助金・助成金は後払いとはいえ、国や自治体から支給を受けられれば、DX推進にかかる資金面の負担は格段に軽くなります。
これからDX推進に取り組む際は、ぜひ活用できる補助金・助成金がないか探してみてください。