あらゆる産業において、最新のデジタル技術を利用した今までにないビジネスモデルやサービスが登場しており、ますますDX推進の必要性が高まってきています。
そんな中、経済産業省によると各企業のDX推進への関心は高いですが、「具体的な進め方」が課題となり、世界と比べると日本のDX推進は遅れている状況です。
DX推進をしなければという思いはあるものの、「何をすればよいのか」「何から始めたらいいのか」「どういう進め方(プロセス)が正解なのか」など、苦慮している方もいるのではないでしょうか。
今回は、DX推進を進める為のプロセスについて、具体的な進め方や注意点について解説していきます。
DX化とは?
はじめに、DXとは何かについて解説します。
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。
企業がAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を利用して、レガシーなシステムからの脱却や既存ビジネスの課題を解決し、新たなビジネスモデルの創出、企業風土の変革を実現させる事を意味します。
今、市場には新たなデジタル技術を利用したビジネスモデルがに登場しています。
そんな、変化の激しい市場に対し、競争の優位性を維持し続けるためにDX推進は重要な活動になります。
【企業向け】DX推進のプロセスを解説
「いざ、DX推進をはじめよう」と思っても、実際は何からスタートすれば良いか分からないという企業は数多くあります。
DX推進は、誤った方法で進めようとすると、一部をデジタル化して終了してしまったり、現場の協力が得られず失敗してしまいます。
ここではDX推進のプロセスとして、段階的に以下の6つの手順について解説します。
①現状の調査
まずは、現状の調査からはじめます。
なぜかというと、現状の把握が間違っていると、この後の活動がすべて誤った進め方となってしまう可能性があります。
「As is」を把握する事で、自社が理想とする「To be」を認識できるようになりますので、丁寧に現状の調査を行います。
ポイントとしては、以下の4点になります。
- 市場(顧客)のニーズ・インサイトの理解
- 課題の理解
- ITリソース(人材・システム・技術・データ)の把握
- 成功/失敗事例の確認
1.市場(顧客)のニーズ・インサイトの理解
IoT・クラウドコンピューティングといったデジタル技術の進歩が進むことで、市場にも新たなビジネスモデルが登場しています。
それに伴い、顧客のニーズ・インサイト(購買時の消費者自身も気づいていない行動の根拠や動機)についても変化が生じています。
そのため、表面的なニーズだけではなく、顧客が購買時に行う行動と同じ行動を実施してみるなどの「インサイトの深堀が必要不可欠」です。
2.課題の理解
DX推進は既存ビジネスでネックとなっている部分の解決や、新たなビジネスの創出することによる競争率のUPがメインテーマになります。
上記のため、そのテーマを念頭に自社の課題となる部分について検討を行います。
「どんな課題」があり、「どうする事で解決できる」のかについて考察します。
3.ITリソース(人材・システム・技術・データ)の把握
DX推進を進めるにあたり、重要となるなITリソース(人材・システム・技術・データ)について把握します。
「活用できるデータはどんなものがあるのか」「DXを推進できる人材はいるのか」「どんなシステムを利用しているのか」など、DXの方向性を決めるためにも重要な情報になります。
4.成功/失敗事例の確認
DXについては、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を策定したことが契機となり、多くの企業でDXに関する取り組みが行われています。
DXに取り組んだ先行事例も増えてきているのです。
そんな成功・失敗事例をよく分析して各要因を明確にし、ポイントを的確に押さえることでDXの成功確率を高めることが可能です。
②DXに関するビジョン・経営計画の策定
現状の把握・整理が完了したら、「DX推進を通して実現したいこと」のビジョンや、それに伴う経営計画を策定していきます。
経済産業省のDXレポートにある「デジタル変革の実現における課題」によると「デジタルに対するビジョンと戦略の不足」がDXを推進する際の課題上位にきいます。
また経営層からビジョンや経営計画のコミットがないまま、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施するという進め方を繰り返し、ビジネスの改革に繋がらないといったケースが多く散見されています。
DX推進とは、どこか一部の部署が頑張る活動ではなく全社一丸となり同じ方向へ向かって取り組む「企業変革活動」になりますので、目指すべきゴールと道しるべが必要不可欠です。
そのゴールが「DXに関するビジョン」、道しるべが「経営計画の策定」になります。
このプロセスのポイントは、「必ず経営層が主体となり策定していく」ことです。
壮大なテーマになるので外部の専門家へ丸投げしたくなる気持ちもわかりますが、経営層がDXを自分事と捉えられていない場合、DX推進の推進力に影響が出てしまいます。
例えば、既存システムの刷新を例に考えると、既存システムについてはすでにレガシーで保守運用費が多くかかっているけれどとりあえずは稼働しているという場合、現場サイドの抵抗は強くなります。
本来であれば、経営層が強い意志のもと推し進めることが出来ますが、経営層の関心が薄い場合はたちどころに押し込められ、結果DX推進は頓挫してしまいます。
そういった状況に陥らないためにも、必ず経営層が主体となりビジョン、経営計画の策定を実施する必要があります。
③ロードマップの策定
ここまでに実施したプロセスの「現状の把握」や「DXに関するビジョン・経営計画の策定」を踏まえ、目指すべきゴールへの道筋を設定することが「ロードマップの策定」になります。
進め方のポイントとしては、「現状の把握」や「DXに関するビジョン・経営計画の策定」を一段階細かく落とし込み、スタートから時系列に沿ってフェーズを区切ることによって「いつまでに何を実施するのか」「どこで、どれぐらいの予算を割り当てるのか」など、具体的な計画を立てることです。
また、各フェーズ、項目ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定する事も重要です。
もう一つ、ロードマップ策定時に取り入れたいのが、経済産業省が提示した「DXレポート2(中間取りまとめ)」の中で提示された「DX実現に向けて実行すべきアクション」です。
以下の手順が提示されていますので、要点を絞って解説します。
- 直ちに(超短期)取り組むアクション
- 短期的対応
- 中長期的対応
1.直ちに(超短期)取り組むアクション
直ちに(超短期で)取り組むべきアクションは、全社的な「DX への認知と理解を推し進めること」、そして成功事例などの「情報を収集や、ツール導入による業務のデジタル化」が提示されています。
そのアクションは次の通りです。
- 業務環境のオンライン化
-テレワークなどの業務環境の整備や、社内外のコミュニケーションに関するオンライン化。 - 業務プロセスのデジタル化
-業務プロセスとして発生する紙書類や、営業活動などの業務手順で生じる事務作業などのデジタル化。 - 従業員の安全・健康管理のデジタル化
-現場作業員・従業員の活動量の計測や、効率的な労働環境の整備などのデジタル化。 - 顧客接点のデジタル化
-ECサイトによる電子商取引や、チャットボット導入など顧客接点のデジタル化。
2.短期的対応
短期的なアクションは、「DX推進体制の整備」、「DX戦略の策定」、そして「DX推進状況の把握」になります。
各アクションの詳細は、次の通りです。
DX推進体制の整備 | |
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DX推進に向けた関係者間の共通理解の形成 | 経営層、事業部門、 IT部門の対話を通じた共通理解を形成する |
関係者間が互いに業務変革のアイデアを提示し、仮説・検証のプロセスを推進 | |
失敗を恐れない・失敗を減点としないマインドセット | |
CIO/CDXOの役割・権限等の明確化 | デジタルを戦略的に活用する提案や、施策をリードする役割の設置(CIO/CDXO) |
CIO/CDXOの果たすべき役割と権限等を明確にし、適切な人材の配置 | |
遠隔でのコラボレーションを可能とするインフラ | 地理的に離れた人材と遠隔でもコラボレーションを可能とするインフラ整備 |
DX戦略の策定 | |
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業務プロセスの再設計 | 「人が作業することを前提とした業務プロセス」を、デジタル前提のプロセスとして「顧客への価値創出に寄与するか」という視点のもと見直しを行う |
再設計の活動については、恒常的に行い見直した業務プロセスがレガシー化しない様にチェックする |
DX推進状況の把握 | |
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進捗状況の管理と評価 | DX推進指標を策定し、DXの進捗状況を定期的に評価する。またDX推進指標による診断については、定期的に実施すること |
DX推進の推進状況について、関係者間で認識を共有する |
3.中長期的対応
中長期的なアクションは、「デジタルプラットフォームの形成」、「産業変革のさらなる加速」、そして「DX人材の確保」になります。
そのアクションは次の通りです。
デジタルプラットフォームの形成 |
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協調領域について、自前のプラットフォーム主義を排し、経営トップのリーダーシップの下、SaaSやパッケージソフトウェアを活用する。また、貴重なIT投資を不要な部分へ投資するのではなく、新たな価値の創出に必要な部分へ投入することが重要です。 |
産業変革のさらなる加速 | |
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変化対応力の高いITシステム構築を構築するために | 競争領域の変化の速さに対応するべく、今までのような要件全体を無理に定義することや、想定しきれない作業量を見積もるなどの手法を排し、仮説・検証といった手順を俊敏に実施するため、「アジャイルな開発体制」を社内に構築し、市場の変化をとらえながら小規模な開発を繰り返す体制の構築が求められる。 |
ベンダー企業の事業変革 | 今までの外部パートナーという枠から脱し、ユーザー企業の事業を深く理解し、新たなビジネスモデルを共に検討する「ビジネスパートナー」へと関係を深化させてことが必要となります。ベンダー企業自身も変革していくことが必要となる。 |
ユーザー企業とベンダー企業との新たな関係 | 今までの外部パートナーという枠から脱し、ユーザー企業の事業を深く理解し、新たなビジネスモデルを共に検討する「ビジネスパートナー」へと関係を深化させてことが必要となります。 |
DX人材の確保 | |
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ジョブ型人事制度の拡大 | IT人材の不足を鑑み、社外を含めた多様な人材が参画してコラボレーションできるようなビジネス環境が重要になってくるため、ジョブ型の雇用に移行する方向での人材登用が必要となる。 |
ジョブ(仕事の範囲、役割、責任)を明確にし、成果の評価基準を定める段階からはじめること。 | |
DX人材の確保 | DXの推進においては、企業が市場に対して提案する価値を現実のITシステムへと落とし込む技術者の役割が極めて重要となります。人材を確保、維持するためにも「専門性を評価する仕組み」や、「リカレント学習で育成する仕組み」「効果的な研修」を導入することが必要です。 |
④DX推進組織の構築・変革
次は、組織体制の構築について解説します。
ポイントとしては、その企業に合わせたDX推進組織を構築をすることです。
以下の3つのタイプに分けて解説します。
IT部門拡張型
社内SEなどITに詳しい部門の人材を中心に組織を構築し、DX推進を目指します。
ITの専門性が高いため、システムの刷新や導入、開発についてはスムーズに行えますが、現場業務については疎い可能性があるため、実際の業務やビジネスを理解している人材を組織に加えたり定期的に連携をとり推進していくプロセスが必要になります。
事業部門拡張型
事業部門に精通している人材を中心に組織を構築し、DX推進を目指します。
現場やビジネスに沿ったDX化が可能ですが、デジタルに関する知見や知識を持つ人材が少ない可能性がありますので、定期的にIT部門と連携を取りながら進める必要があります。
専門組織設置型
DX推進に特化した専門の組織を構築しDX推進を目指します。
DXに関する知識やビジネス変革を加速させるような施策の立案・実行などが期待できますが、様々な部署から人材を確保するため、組織としてまとまりにくいことが懸念されます。
また経営層とDX推進メンバーの思いだけで推し進んでしまい、現場との軋轢が生まれやすい事も考えられます。
マネジメントに精通している強いリーダーをアサインし、他部署との連携やチーム内連携を意識した対応が必要です。
⑤実行
ここまでのプロセスで環境が整ったら、いよいよ実行に移ります。
いきなり大規模なシステムの刷新などのアクションに取り掛かると、莫大な時間がかかったりコストだけ悪目立ちしてしまう可能性があります。
まずは、他部署の信頼や協力を得るためにも、業務効率化・生産性向上に寄与する成功を着実に積み上げたり、企業全体ではなく1つの部署を対象に実施するといった「スモールスタート」でのDX推進がおすすめです。
⑥定期的なPDCAサイクルによりビジネスモデルの変革まで繋げる
ここまでのプロセスが大変だった分、DX推進がスタートすると安心してしまう事がありますが、あくまでもスタートですので定期的にDX推進に対して評価を行い、仮説・検証といった手順を繰り返します。
ポイントとしては、新たにシステムが開発できたかどうかではなく「ビジネスとして価値が向上しているか」という方針で評価する仕組みとなっているかが重要です。
またDX推進については、従業員や現場にわかりやすい評価が大事になります。
自社のDX活動がうまくいっていると感じた場合、DX推進の加速力は高まりますし協力領域も増えていきます。
各フェーズごとにKPIを設定し、具体的にチェックする機能と定期的にPDCAサイクルを回し、変革していける組織作りが必要です。
具体的なDX成功の秘訣を紹介
数多くの成功事例を確認し、共通しているDX成功の秘訣について解説します。
経営層の積極的な姿勢とコミットメントしている
DX戦略を決定するのは経営層です。
経営層が積極的にビジョンの共有や戦略を発信しリードしていくことで、DX推進力が衰えることなく、従業員も巻き込み良い流れの中進める事ができます。
スモールスタートで小さな成功を積み重ねている
まずは社内のデータ活用などスモールスタートでDX推進を開始し、成功体験を積み重ねていきます。
DX推進が止まってしまう要因の一つに、はじめから大掛かりなプロジェクトで大きな結果を求めてしまうことです。
DX推進は大きな変革ではありますが、魔法の様な戦略ではありません。検証と改善を繰り返し、着実に進めていくことが大事です。
全社が一丸となりDX推進に取り組んでいる
成功している企業は、個人や部署の単位ではなく企業規模でDX推進に取り組んでいます。
課題や目標などのビジョンを共有し、DXに関する懸念や不安などの声があれば徹底的にケア、すべての関係者が自分の事として取り組めるような体制が整備されています。
DX推進は今までの業務プロセスやフローを変革する活動ですので、全社が一丸となり取り組むのは重要なポイントです。
【記事まとめ】DX推進のプロセス
今回は、DX推進するためのプロセスについて具体的な進め方や注意点について解説しました。
- DX化とは?
- 【企業向け】DX推進のプロセスを解説
- 具体的なDX成功の秘訣を紹介
DX推進については、あらゆる産業の企業が取り組むべきものですが、その取り組みについては企業に合った進め方があります。
まずは現状の調査からはじめ、その企業ごとの目的や戦略、アクションを経営層主導のもと決定し進めていく必要があります。
難しいと感じる部分はあるかもしれませんが、世の中にはいろんな成功体験、失敗体験が存在していますので、参考にしながらDX推進を進めていきましょう。