DX推進成功のカギとなるのが、人材を確保できるかどうかです。
ビジネスモデルの案を確立させ、具体化できるスキルを持った人材がいなければ、DX化がいっこうに進まないからです。
そこでこの記事では、デジタル人材の定義やデジタル人材が担う職種、デジタル人材に必要なスキルや知識について解説します。
また、現在デジタル人材は不足しているので、人材の確保に苦労することも珍しくありません。そのため、デジタル人材の採用・教育方法についても紹介していきます。
DX推進のキーパーソン「デジタル人材」とは
デジタル人材とは、最先端のデジタルスキルを活かし企業のDXを推進できる人材を指します。
DXの推進には、AIやクラウド、ビッグデータといった最新技術を使いこなすことが必要不可欠です。
こういったスキルを持ち、業務効率化や新たなサービスの創出を実現するのに、デジタル人材は必要不可欠と言えます。
日本企業にはデジタル人材が不足している
日本企業にはデジタル人材が不足しており、人材の育成及び確保が求められています。
内閣官房の「デジタル田園都市国家構想実現会議」が発表しているレポートの中でも、「日本人労働者のデジタルスキルは64か国中62位で、質・量ともにデジタル人材が充実しているとは言えない」と記載されています。
同レポートによれば、現状のままでは2030年には80万人程度のデジタル人材が不足するとされており、IT人材の需要と供給のギャップは非常に大きいことが分かります。
従って多くの企業にとって、DX推進によってビジネスモデルの変革を実現するためには、人材の育成や確保が急務となると言えます。
5つの役割(職種)
構成労働省は、「DX推進スキル標準」の人材として、以下の5種類の職種を定義しています。
- ビジネスアーキテクト
- データサイエンティスト
- サイバーセキュリティ
- ソフトウェアエンジニア
- デザイナー
それぞれについて詳しく解説していきます。
ビジネスアーキテクト
DXの取り組みにおいて、目標設定から導入、関係者のコーディネートなどを通して、目的実現のプロセスを推進し目的を実現する人材のことです。
主に以下の役割を担います。
新規事業の開発 | データやデジタル技術を活かし、新しいサービスを生み出す |
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既存事業の発展 | データやデジタル技術を活用してサービスを向上させる |
業務効率化 | デジタル技術を活かしてコスト削減や自動化を行う |
これらがビジネスアーキテクトの主な役割となります。
ほかにも、関係者どうしの協力関係を調整したり、認識合わせを行ったりするプロジェクトマネージャーに近い役割も担います。
アーキテクトとは英語で建築家のことを指しますが、ビジネスアーキテクトの役割にはビジネスの流れを構築するだけでなく、目的実現に向けて全体を俯瞰しながらゴールまで導くことも含まれます。
データサイエンティスト
DXの取り組みにおいてデータを収集・解析する仕組みを設計し、実装および運用する人材のことです。
ビッグデータを活用することで、デジタル技術を活用した業務変革や新規ビジネスの実現を目指すポジションを指します。
データサイエンティストはさらに細かく分けると、以下の3種類に分類できます。
データビジネス ストラテジスト |
データを活用した戦略を立案やマネジメントをする役割。 |
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データサイエンス プロフェッショナル |
データの解析をし、その結果から新規事業や業務効率化につながるアイデアを創出する。 |
データエンジニア | データを収集し分析し、それに応じて自動的にシステムが最適化される環境を創る仕事。 |
データサイエンティストの業務内容は、AI活用とのかかわりが深いのも特徴です。
ビッグデータを活用しAIが学習できる環境を構築する上で、データサイエンティストの果たす役割は非常に大きいと言えます。
サイバーセキュリティ
デジタルを活用したビジネスモデルの変革において、サイバーセキュリティリスクを抑制する人材です。
デジタル環境を構築する場合、必然的にセキュリティリスクが発生するためその対策を担当します。
役割により以下の2種類に分けられます。
サイバーセキュリティマネージャー | 新規ビジネスの企画立案時に、デジタル活用時にどのようなセキュリティリスクが生じるから検討し、対策の管理や統制を主導する役割。 |
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サイバーセキュリティエンジニア | デジタル環境におけるセキュリティリスクを抑えるために、対策の導入や保守を行う仕事。 |
ビジネスにデジタルを導入するにあたり、セキュリティのリスク対策は非常に重要と言えます。
もしもセキュリティ対策に穴があれば、顧客の個人情報の流出など重大な問題が発生するでしょう。
そのため、セキュリティ対策のスペシャリストとしてビジネスの利便性を保ちつつ、安全性を担保する能力が求められます。
ソフトウェアエンジニア
デジタル技術を活用した製品やサービスを提供するための、システムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材です。
具体的には、プラットフォームの開発や保守・運用や、AIやビッグデータの解析、システムの実装スキルが役割となります。
業務担当領域に応じて、以下のように分類できます。
フロントエンドエンジニア | ユーザーから見えるインターフェイスについての機能の開発を行う。 |
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バックエンドエンジニア | アプリケーションやソフトウェアに関してサーバー領域の開発を担当する。 |
クラウドエンジニア | クラウドを活用しソフトウェアの開発や運用をする。 |
フィジカルコンピューティング エンジニア |
現実世界の動作などをデジタル領域に反映させるための開発を担当する。 |
高度な技術力を活かして自社の競争力を向上させるとともに、ほかの関係者と柔軟に連携できる能力が求められます。
デザイナー
ビジネスやユーザーの視点を総合的に捉え、製品やサービスのデザインを担う人材。
デザイナーは担当する分野によって役割が異なり、以下のように3種類に分けられます。
サービスデザイナー | 顧客に提供するサービスデザインする職業。ユーザーが進んでサービスを利用したくするためにはどうしたらいいかを考えデザインする。 |
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UX/UIデザイナー | ユーザーが直接触れる部分をデザインし、顧客満足度を上げるデザイナー。WEBサイトの見やすさや購入しやすさを考えてデザインするのがその一例。 |
グラフィックデザイナー | ブランドのイメージを具現化するために、グラフィックをデザインする役割。 |
このように一口にデザイナーと言っても、職業によって担当する領域が異なります。
デジタル人材に必要なスキルや知識
デジタル人材には以下のスキル・知識が求められます。
- ITやデジタルについての基本知識
- データサイエンスの知識
- マネジメントスキル
- 企画力や構築力
それぞれを詳しく解説します。
ITやデジタルについての基本知識
デジタルやITの技術を活用しビジネスモデルを変革するので、言うまでもなくデジタルやITの基本知識は必要不可欠です。
具体的にはWEBやアプリケーション、システムなどの基本知識が挙げられます。
これらを理解していないと、課題を解決するための有効な方法やアイデアを見つけることができません。
デジタル人材を育成する場合は、基礎知識をしっかり身に着けられるようにしましょう。
データサイエンスの知識
DX推進においては、データサイエンス領域の知見が必要です。
ビッグデータや機械学習を活かしたデータ分析の重要度は年々増しており、ビジネスモデルの変革においては必須と言えます。
統計学や基礎数学、Python(パイソン)などのプログラミング言語を有効活用したデータ分析を行える能力が必要となります。
これらのスキルを活用できる企業とできない企業の間で、競争力に差が生まれるため、データサイエンスの知識は必要不可欠です。
プロジェクトマネジメントスキル
プロジェクトマネジメントスキルとは、予算や人員、スケジュール等の管理を行い適切にプロジェクトを成功に導くスキルのことです。
DX実現のためには日常業務をすべてこなしながらも、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築する必要があります。
また、社内の一部署だけの力では改革できないので、社内全体での取り組みが必要なのです。
そのため、組織やプロジェクトマネジメントのスキルが必要になります。
さらに、DX推進を行った際に一度ですべてがうまくいくことはまれのため、多くの場合軌道修正しながら進めていくことが必要です。
そういった状況に対応するためにも、柔軟かつ計画的にプロジェクトを進めるマネジメント力が必須となるのです。
企画力や構築力
企画力とは、デジタル技術を生かしたビジネスモデルの変革のために、企画を立案するスキルです。
一方構築力とは、企画実現のためにビジネススキームを構築する能力のことです。
これらのスキルが必要なのは、DX推進のためには単にデジタル技術を導入するだけでは不十分だからです。
業務の一部をデジタル化するだけであれば、企画力や構成力は不要で、デジタルに関するちょっとした知識があれば十分でしょう。
しかし、DXにおいてはビジネスモデルそのものをIT化し売り上げをアップさせる必要があるので、企画や構成ができる必要があります。
DX人材を確保する方法
ビジネスのデジタル化を通してDX推進を実践するには、デジタルの知識やスキルを持った人材が必要不可欠です。
しかし、デジタル人材は日本企業全体を通して不足してるため、人材の確保は簡単ではありません。
一体どうすれば、DX推進ができる人材を用意できるのでしょうか?
ここではDX人材を確保する3つの方法を紹介します。
DX人材を採用する
初めからDX推進ができるスキルを持った人材を採用するのが、最初の方法です。
ただ、ITスキルを持った人材の需要がここ数年で急増しているため、優秀な人材の獲得は容易ではありません。
そのため、求職者にとって魅力的な企業であることをアピールして、「ほかよりもこの企業に入りたい」と感じてもらう必要があります。
また、優秀な人材が他社にいればよりよい条件を提示することで、スカウトするケースも多くなっています。
DX人材を育成する
DX人材の中には、自社の社員を育成することで発掘できる職種も存在します。
プロデューサーやデザイナーは、円滑なプロジェクト推進や自社へのビジネスの理解といった、デジタル以外のスキルが求められます。
こういった素質をもった人材にデジタル関連の知識を伝えれば、テクノロジーとビジネスの両方に精通した人材に育てることができます。
外部人材を活用する
優れたエンジニアやコンサルタントといったデジタル人材がフリーランスとして活動しているケースがあるので、外部人材を活用するという手段もあります。
フリーランスとして活動している人は、採用市場には登場しないことも多く正社員として採用するのは非常に難しいケースがあります。
しかし、外部人材として迎え入れれば、優秀な人材を業務に加えられるため有効活用するのもいいでしょう。
また、新規事業立ち上げのように短期間で必要なスキルが入れ替わる場合も、外部人材であれば期間限定で雇用できるメリットがあります。
DX推進のための人材育成の方法
デジタル人材を確保する上で知っておくべきなのが、社員を育成しデジタル人材へと育成する方法です。
転職市場全体を見てもデジタル人材は不足しており、新規でスキルを持った人材を採用するだけでは十分な人数が揃うことは稀だからです。
そのため、社員を教育する必要があると考えるべきですが、その際に必要なのは複数の方法を組み合わせることです。
基礎知識を学ぶ際には講座受講によるインプット型の教育も必要になりますし、実践の中でのアウトプットを通してスキルを身に着ける工程も必須です。
ここでは、デジタル人材育成に有効な教育方法の一覧を紹介するので、自社で実践可能な方法を取り入れて人材育成に活用していただければと思います。
座学研修
座学研修で社内が知識をインプットできる機会を作り、人材育成するのが1つ目の方法です。
ITリテラシー・データサイエンス力やデジタルツールの活用法といった知識を、大勢に社員が一斉に学習できるのが座学研修のメリットです。
ただし、座学でできるのは知識のインプットのみのため、これだけでは知識が定着し現場で使えるレベルにはなりません。
DXを推進できる人材に育てるためには、別途でアウトプットの機会を用意する必要があります。
オンライン講習での研修
オンライン講座を活用するのも一つの方法です。オンラインであればスマホなどから、DX推進に必要な知識を場所を選ばずにインプット可能です。
社員数が多く座学研修が難しい場合も、オンライン講座なら人数に関係なく学習機会を提供できるメリットもあります。
ただし、オンライン講座を利用するには当然のことながら口座を作成し、WEBサイト上で閲覧できる環境を作らなければなりません。
社内で作成するのが難しければ、DXのオンライン講座を提供する企業に依頼するのもいいでしょう。
OJTでの研修
OJTではDX推進を行う中で実際に起こりがちな問題を、伴走形式で解決することで、必要な知識を身に着けられます。
学んだ知識をアウトプットできるため、DX推進に必要な実践力を持った人材を育成できる方法であると言えるでしょう。
OJTは少人数を対象に行う研修のため、大勢に行うのではなくDX推進できる人材を選抜したうえで、その人物のみに対して行うのがおすすめです。
また、社内にデジタル人材がおらずOJTの実施が難しい場合は、研修会社に依頼し講師を用意することも可能です。
ジョブローテーションでの研修
様々な職種や職場を異動して研修を行う、ジョブローテーションもDX人材育成の有効な方法です。
営業やマーケティング、カスタマーサクセスなどあらゆるスキルを学ぶことで、様々な業務を包括的に行えるゼネラリストを育成できるのがメリットです。
PM(プロダクトマネージャー)など、全体を統括するポジションの人材を育成したい場合は、ジョブローションは非常に有効な教育方法となることでしょう。
記事まとめ
DX推進を実現するには、最先端のデジタルスキルを持ったデジタル人材が必要不可欠です。
しかし、日本ではデジタル人材が不足しており、必要な人的リソースを確保するのは容易ではありません。
社員として高いスキルを持った人材を採用しようとしても、様々な企業の間での奪い合いになるため、そう簡単にはいかないのが現実です。
したがって、教育を通して自社の人材をデジタル人材に育成したり、スキルを持ったフリーランスを外部人材として迎え入れたりといった、工夫をし必要な人材を確保していきましょう。