国はDX推進の目指す企業に向けてガイドラインを公開しています。ガイドラインは、より良いデジタル戦略・デジタル施策について考える上で有用です。
この記事ではDX推進ガイドラインについて解説します。DX推進の流れや成功のポイントなども紹介するので、デジタル化に関心のある人はぜひ参考にしてください。
DX推進ガイドラインとは
DX推進ガイドラインとは、企業がDX推進に取り組むための指針をまとめたものです。
経産省が2018年12年に正式名称「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」として公表しました。
ガイドラインには、DX推進のために経営者が押さえるべきことや、ステークホルダーが確認すべき項目などがまとめられています。
ガイドラインを見れば、DXを推進するための経営の仕方やデジタル化を駆動するITシステムの構築などについて理解できます。
なお、DX推進ガイドラインは2021年9月、同系統の資料である「デジタルガバナンス・コード」と統合されました。
以降は「デジタルガバナンス・コード2.0」に名を変え、経営者等がDX推進施策の指針について体系的に確認できる資料となっています。
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)」
ガイドラインが作成された背景
DX推進ガイドラインが策定された背景には、日系企業のDXに関する取り組みが遅れているという社会的な課題があります。
先端的なITシステムを活用して競争力を高める企業が一部存在する一方、非効率なレガシーシステムを使い続けている企業も多いです。
またデジタル施策には関心を持っているものの、DX推進やITの知見が不十分であり、経営の「変革」には至れていない企業もあります。
さらにDX推進の能力を無形資産と考える観点も、経営者やステークホルダーの間で十分に醸成されていません。
以上のような背景を受けて、国がガイドラインを定め、企業の主体的なDX推進を促進する流れとなりました。
ちなみにDX推進の取り組みが遅れると、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が出るという試算もあります。
この試算から「2025年の崖」という言葉が生まれ、DX推進の遅れは日本が抱える喫緊の問題となっています。
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0 (旧DX推進ガイドライン)」、「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」
DX推進ガイドラインの構成
デジタルガバナンスコード(旧DX推進ガイドライン)は、下記の通り、6種類の項目で構成されています。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
2-1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策 - 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
以下ではガイドラインの各構成要素について、基本的な考え方や方向性、具体例などを紹介します。
1. ビジョン・ビジネスモデル
(1)基本的な考え方
DX推進に取り組む企業は、ITシステムをビジネスに必須なものとして考え、経営ビジョンおよびビジネスモデルを生み出す必要があります。
その際には、データやデジタル技術がもたらす社会、市場の変化が、自社にどのような影響を与えるかも意識しなければなりません。
(2)望ましい方向性
前提として経営者には、社会のデジタル化が自社にもたらす可能性やリスクについて、正しく理解しておくことが求められます。
その上で経営ビジョンの中でデジタル戦略を重視し、デジタル施策によって既存のビジネスモデルを改革できるのが理想的です。
またDX推進によって他社との競争優位性が持続的に発揮されることも期待されます。加えて、デジタル技術でほかの主体とネットワークを形成し、従来にはない多様な協創が生まれればより良いといえます。
(3)成功事例
ガイドラインが示すDX推進のビジョン・ビジネスモデルに関する取り組み事例は以下のようなものです。
- 中期経営計画をはじめとする各種の計画・方針にDX推進のためのビジョンを記載している
- DX推進のビジョンを実現可能なビジネスモデルを的確に設計している
- DX推進に伴うビジネスモデルの内容はスムーズな事業構造の転換やグローバル展開といった変革につながるものである
- DX推進のビジネスモデルを実現するための企業間連携を考えている
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
2. 戦略
(1)基本的な考え方
DX推進を目指す企業は、デジタル化する社会や市場の変化を踏まえ、デジタル技術の活用を盛り込んだ戦略を考えるべきです。
そしてその戦略を、経営幹部や管理職、投資家ほか、社内外の関係者に示す必要があります。
(2)望ましい方向性
策定する戦略は、企業の経営ビジョンを実現するための具体的な道程となるような内容にすべきです。
また方針だけでなく、各社の財務状況を踏まえた合理的な予算配分という数字の面でも適切な戦略を構築しなければなりません。
なお、DX推進の戦略を考える際は、データを「重要経営資産」として活用する観点が求められます。
(3)成功事例
ガイドラインが示すDX推進にかかわる戦略の取り組み事例は、以下のようなものです。
- DX推進を実現可能な形で具体的に戦略を定めている
- 経営戦略にDX推進の取り組みを明示し、なおかつその取り組みで効果を上げている
- 経営や事業を把握する仕組み(システム)を設けるとともに、そこから得られたデータを経営判断に活用している
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
2-1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
(1)基本的な考え方
DX推進の取り組む企業は、策定したIT戦略の実行のために必要な体制を構築しなければなりません。
その際は、ITツールの導入をはじめとする設備投資のほか、人材の登用や育成、外部組織との連携、協働などの観点も重視すべきです。
またDX推進のための組織設計や事業のあり方に関して、利害関係者に適切な説明をすることも求められます。
(2)望ましい方向性
DX戦略の推進に向けて、経営幹部から現場の社員まで、あらゆる人材が自発的に行動できるような体制(役割と権限)の整備が必要です。
また必要なデジタル人材の像を明確化するとともに、その確保や育成、評価などに人事的仕組みを作り上げることも求められます。
そのほか、全社的にDX推進を目指すべく、研修をはじめ、社員のITリテラシーを向上させるための施策を講じることも重要です。
(3)成功事例
ガイドラインでは、DX推進に向けた組織づくり・人材・企業文化の取り組み事例について、以下のようなことが挙げられています。
- DX推進に従事する責任者を、CTOやCIOといった役職に任命し、各人の役割や権限を明確にする
- 経営者自身が先進的なデジタルツールやその活用事例などについて学び、主体的に自社の戦略に反映させる
- DX推進のための予算を、ほかのIT予算とは別枠で一定以上確保する
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
(1)基本的な考え方
デジタル戦略を考えたら、それを実現するためにITシステムやデジタル技術を導入・活用する環境を整える必要があります。
そのためにはプロジェクトやマネジメント、技術要素などについての計画を明確にすべきです。
また策定した計画を社内外の関係者に提示し、理解を得ることも求められます。
(2)望ましい方向性
ITシステムやデジタル技術の環境整備で必要なのは、レガシーシステムの技術的負債や非効率を解消することです。
新しいツールへの完全移行も念頭に、DX戦略を実現するためにシステムを最適化することが求められます。
またIT人材の力量によらず、システム自体の精度やガバナンスの結果としてデジタル環境が効率化されることが重要です。
(3)成功事例
ガイドラインによるとITシステムやデジタル技術の環境整備に関する取り組み事例は以下のようなことです。
- 既存システムと新規ツールを連携させ、既存のデータも活用できる状態を作る
- レガシーシステムが戦略実現を阻害しないよう、効率性の分析・評価や課題の把握を行う機会を定期的に設ける
- 技術的負債を防止する対策およびそれを実施する体制づくりを行う
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
3. 成果と重要な成果指標
(1)基本的な考え方
DX推進に取り組む企業は、策定した戦略の達成状況を客観的に把握できるような指標を定めるべきです。
また定めた指標に基づいてDX推進の進捗を自己評価し、その結果を利害関係者に明示することも求められます。
(2)望ましい方向性
DX戦略の達成度は、ビジネスのKPI(重要業績評価指標)によって評価されるのが望ましいといえます。
DX推進をビジネスのKPIで測れば、デジタル施策が企業の経営計画・経営目標の達成に寄与しているかどうかがわかるからです。
またデジタル戦略が最終的に財務成果(KGI)につながるような指標を設定できればより良いといえます。加えて、デジタル戦略と関連してSDGsにかかわる取り組みを実施し、成果を上げられればさらに理想的です。
(3)成功事例
ガイドラインではDX推進の成果および成果指標に関する取り組み事例として、以下のようなことが挙げられています。
- 全ての取り組みにKPIを設定するとともに、KGI(最終財務成果指標)にもつなげる
- 企業の価値向上に寄与するKPIに関して、指標や成果をステークホルダーに示す
- DX推進が適切に実現されているかを測る指標(定量・定性の両方)を設定し、評価を実施する
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
4. ガバナンスシステム
(1)基本的な考え方
第一に、DX推進においては経営者がリーダーシップをとり、利害関係者への情報発信も含めて主体的にデジタル施策を実施すべきです。
またITシステム部門を含めた各部門の担当者と協働のうえ、自社におけるDXの現状と課題を把握し、戦略を更新することも求められます。
また取締役会のある企業では、同会がDX戦略の策定に対して適切な役割を全うするとともに、経営者を取り組みを監督することも重要です。
(2)望ましい方向性
DX推進を成功させるには、経営者が自らの言葉でデジタル戦略・施策のビジョンを社内外に発信できることが大切です。
また戦略の成果や課題の把握を常に行うとともに、適宜戦略を見直すことも求められます。
さらにサイバーセキュリティ対策やシステム障害対策、プライバシー保護対策など、全社的なリスクにかかわる対策を打つことも大切です。
(3)成功事例
ガイドラインではDX推進にかかわるガバナンスについての取り組み事例として、以下のようなことが挙げられています。
- DX推進について、経営者本人が経営計画発表やメディアなどで情報発信をする
- 経営者とDX推進の責任者たちが緊密に連携しながら施策を進める
- DX推進について、取締役会や経営会議で議論を活発に行う
参考:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
DXを効率よく進めるポイント
ガイドラインの内容を踏まえると、DX推進を実現するためのポイントは以下のようなことにあると考えられます。
ポイント1:経営者が計画を主導する
何よりも重要なポイントは、経営者自らが主体となってDX推進に取り組むことです。経営者が「DXを推進しろ」と発するだけで、IT部門任せにしていたのでは、より良いデジタル施策は実現できません。
経営者が各部門と積極的にコミュニケーションをとり、社外にも情報発信を行なってDX戦略を主導することが必要です。
ポイント2:DX推進の先にあるビジョンを明確にする
DX推進はあくまで経営ビジョンを達成するための手段です。
DXは、単にツールを導入して業務を効率化するのではなく、その先にビジネスモデルの創設や組織改革といった変革を伴う必要があります。
そのため、まずはDX推進によってどのような目標を達成するのか、ビジョンを明確にしましょう。ビジョンを明確にした上で、大まかな戦略、具体的な戦術と下っていくのが正しい順番です。
ポイント3:ガイドラインや推進指標などを目安にする
DX推進の取り組みを進める上では、ガイドラインのほか、同じく経産省が手がける「DX推進指標」「DX認定制度」などが役立ちます。
例えば、DX推進指標ではデジタル施策に関する設問に回答し、DXの現状を点数化することで成果を評価、課題を把握できます。
またDX認定制度の審査を受けて認定事業者となることは、デジタル施策におけるゴールの設定や企業のイメージアップに有用です。
とくにDX推進の戦略や施策について具体的なイメージが浮かばない場合は、ガイドラインや指標、認定制度などを目安にすると良いでしょう。
ガバナンスコードをDXを推進する基準に
デジタル・ガバナンスコード(旧DX推進ガイドライン)の内容を踏襲することで、DX推進がスムーズに進みやすくなります。
とくにデジタル戦略・施策の理解やアイデアに自信のない経営者の方は、ガイドラインを基準にしてみてください。
DX推進が成功するかどうかは、いかに経営者がリーダーシップを取れるかにかかっています。まずはガイドラインを読み込み、DX推進について理解を深めることから始めるのも良いでしょう。