企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するため、経済産業省はガイドラインの策定をはじめ、さまざまな施策を実施しています。
また経済産業省自身もDX推進を積極的に行なっています。
この記事では、DX推進について主に経済産業省との関連から解説。定義や同省の施策、取り組み事例などを紹介します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
DXの定義は次のとおりとする。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」出典:経済産業省「デジタル・ガバナンスコード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
DXとは、デジタル化によって商品やサービス、ビジネスモデルを変革することです。
「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」を略して「DX」と呼ばれます。
「データとデジタル技術」の活用がポイント
DXにはさまざまな定義があります。経済産業省が公開するものだけでも、上記に引用した定義のほか、いくつかのバリエーションが存在します。
しかし、ほとんどの定義で決まって言及されているのが「データとデジタル技術」の活用です。よって、データとデジタル技術は、DX推進のために必要不可欠なものと言って良いでしょう。
データは、顧客データや販売データ、人事データ、財務データなど多種多様です。デジタル技術にも、RPAやAI、クラウド、ICT、IoTなど、さまざまな種類があります。
つまり一口にデータとデジタル技術の活用といっても、実際の進め方は企業によって千差万別です。
DX推進の目的は「競争優位性の確保」
DX推進の目的は、競争力を高めることです。経済産業省のサイトでも「目的は、競争上の優位性。つまり『他の会社よりも儲かる仕組みをつくること』」とはっきり言及されています。
要するに、DXにおいては、データとデジタル技術の活用により、競争力が高まらなければなりません。
単にITツールを導入するだけで、それが他社との競争に勝利し、収益性を高めることにつながらなければ、DXとは呼べないのです。
ここにIT化とDX推進の違いがあります。DX推進は企業にとっての革命。とりわけ現状、うまくいっていない企業にとっては、まさに大逆転のための施策なのです。
参考:経済産業省 ミラサポplus「『デジタル・トランスフォーメーション』DXとは何か? IT化とはどこが違うのか?」
経済産業省のDX推進施策
経済産業省は、日本企業のDX推進を後押するため、さまざまな施策を実施しています。主な施策は下記の通りです。
DX推進ガイドライン(デジタルガバナンスコード)
経済産業省は2018年12月、企業がスムーズにデジタル化を進められるよう「DX推進ガイドライン」を取りまとめました。ガイドラインは2022年9月に同系統の資料である「デジタルガバナンス・コード」と統合。現在は「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」として、DX推進に取り組む企業の指針となっています。
デジタル・ガバナンスコード2.0(旧DX推進ガイドライン)の構成は下記の通りです。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
2−1.組織づくり・⼈材・企業⽂化に関する⽅策
2−2.IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策 - 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0 」
ガバナンスコードでは、上記それぞれの柱について、基本的な考え方や理想的な方向性、取り組み事例などが載っています。
デジタルガバナンスコード実践の手引き
経済産業省はガバナンス・コードの関連資料として、「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」も公開しています。
実践の手引きには、中小企業のDX推進に役立つよう、DXの定義や成功事例などが詳しくまとめられています。
DX推進の必要性や成功のポイントなどをわかりやすくまとめた要約版や概要版も公開されているため、ぜひ参考にしてください。
参考:経済産業省公式サイト「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」
DXレポート
DXレポートは、経済産業省のデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会が2018年9月に作成した資料です。「2025年の崖」問題やDX実現のシナリオ、DX推進のための対策などがまとめられています。
正式名称を「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」といいます。
ここで言う「2025年の崖」とは、DX推進の取り組みが遅れた場合、2025年を境に、大規模な経済損失が出ることを象徴する言葉です。2025年までに主要な既存システムが続々とサポート終了になります。
よって、以降はシステムの維持やトラブル対応にかかるコストがこれまで以上にかさみます。
試算では日本全体で年間最大12億円が失われるともいわれています。損失を防ぐには、デジタルトランスフォーメーションを推進し、レガシーシステムからの脱却を図ることが必要です。DXレポートには、その方法や経済産業省が進める施策などがまとめられています。
この資料についても、本文のほか、サマリーや簡易版が経済産業省の公式サイトで公開されています。読みやすいものだけでもぜひご覧ください。
参考:経済産業省公式サイト「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」
DX白書
DX白書は、経済産業省の関連機関であるIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発行するDX推進関連の資料です。IT社会の動向をまとめた2009年発行の「IT人材白書」が、時代の流れを反映して「AI白書」、「DX白書」と名前を変えてきました。
DX白書は、第一弾となる「DX白書2021」と、続刊の「DX白書2023」が公開されています。2023年時点で最新版となるDX白書2023の目次・構成は下記の通りです。
第1部 総論
第2部 国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰
第3部 企業DXの戦略
第4部 デジタル時代の人材
第5部 DX実現に向けたITシステム開発手法と技術
付録
出典:IPA(DX白書2023)
上記の通り、DX推進にかかる国内の現状から企業の戦略、ITシステムのあるべき姿に至るまで、DXについて幅広く学べます。
Amazonや書店での取り寄せなどで購入できるため、興味のある方はぜひお買い求めください(定価3,300円)。
DX推進指標
DX推進指標は、デジタルトランスフォーメーションに必要な観点35項目を取りまとめた指標です。
経営者や社内の関係者が、DX推進に関する自社の現状や課題を共有し、改善に向けて行動するための気づきの機会として機能します。
経済産業省の関連機関であるIPAは「DX推進指標 自己診断フォーマット」 を配布しています。各企業は同フォーマットで自己診断を行い、結果をIPAに提出することで、ベンチマークレポート(分析レポート)を取得可能です。
自社のDX推進の現在地を把握し、次のアクションに移る良いきっかけになるため、ぜひ指標を用いた自己診断を行なってみてください。
DX銘柄
DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)は、東京証券取引所の上場企業のうち、優れたDX推進の取り組みを行う会社を経済産業省が認定する仕組み。2022年度は下記の企業を含めた50社が選定されました。
経済産業省が選定したDX銘柄2022
- DXグランプリ2022
中外製薬株式会社(医薬品)、日本瓦斯株式会社(小売業) - DX銘柄2022
清水建設株式会社(建設業)、サントリー食品インターナショナル株式会社(食料品)ほか - DX注目企業2022
株式会社ミライト・ホールディングス(建設業)、キリンホールディングス株式会社(食料品)ほか
なお、経済産業省が公表する「DX銘柄2022選定企業レポート」では、各社の取り組み事例も見られるため、ぜひ参考にしてください。
参考:経済産業省公式サイト「『DX銘柄2022』『DX注目企業2022』を選定しました!」
DXセレクション
DXセレクションは、中堅・中小企業が取り組むDX推進の優良事例を経済産業省が選定する仕組みです。
2023年度は下記の企業が選ばれました。
経済産業省が公表したDXセレクション2023
- グランプリ
株式会社フジワラテクノアート - 準グランプリ
株式会社土屋合成、グランド印刷株式会社 - 審査員特別賞
有限会社ゼムケンサービス - 優良事例選定
池田食品株式会社、株式会社田代製作所ほか
なお、こちらも選定企業レポートが公開されているので、ぜひ参考にしてみてください。
大企業(上場企業)のみが選ばれるDX銘柄に対し、DXセレクションは中小企業ばかりなので、多くの会社が真似できる好事例が載っています。
DX認定制度
DX認定制度は、デジタルガバナンス・コードの基本的事項に対応する企業を経済産業省が認定する制度です。
認定を受けた企業は、IPAのホームページでDX認定事業者として社名が公表されます。
またDX認定制度のロゴマークが使えるため、DX推進に積極的であることを社外にアピールできます。
一部の企業のみが選定されるDX銘柄やDXセレクションに比べ、DX認定事業者に選ばれるのは比較的簡単です。そのため、DX推進の目標として活用するのも良いでしょう。
参考:経済産業省公式サイト「DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)」
デジタル人材育成施策
DX推進の意識が社会全体で高まりつつある一方、その担い手となるデジタル人材はあまり増えていません。
DX推進の需要に対し、デジタル人材の供給が追いついていないことが、日本のDX推進における喫緊の問題です。
そこで経済産業省は、デジタル人材を育成すべく、さまざまな施策を実施しています。具体的な施策のラインナップは下記の通りです。
経済産業省のデジタル人材育成施策
- デジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX(デラックス)」
- 情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験の実施
- ITに関するスキルの体系的な指標の策定
- セキュリティキャンプの実施
- U-22プログラミング・コンテストの実施
- 未来人材ビジョンの策定
参考:経済産業省公式サイト「IT人材の育成」
経済産業省が取り組むDX推進の事例
企業にDX推進を促すかたわら、経済産業省自身もデジタルトランスフォーメーションの取り組みを進めています。
具体的な取り組み事例は下記の通りです。
行政手続きの簡略化・利便性の向上
経済産業省のDX推進を象徴するのが、デジタル技術を活用した行政手続きの最適化。
単に手続きを電子化するのではなく、行政サービスを利用する企業や国民、それを提供する職員の利便につながるよう、手続きをスリム化しました。
具体的に取り組んだのは、手続きが変わるたびに何度も同じ情報を入力しなければならないことを解消した「ワンスオンリー」。
また添付漏れや複数回にわたる記載方法の調整をなくし、関連のある手続きを一括で済ませる「ワンストップ」も実現しました。
また書類作成の工数を民間サービスとの連携で削減し、手間を最小限に。「行政からの生産性革命」をモットーに、DX推進の先進的な好事例を作りました。
行政サービスのデジタルマーケティング
経済産業省は、DX推進の一環として、データを活用した政策のデジタルマーケティングを目指しています。
その実現に必要とされているのが、行政手続きのデジタル化と申請データの収集、およびそれを分析するためのデータ基盤。
それらがあれば、経済産業省にとっての顧客と言える国民や企業のニーズを分析し、行政サービスを改良することが可能になります。
民間企業が当然のように行うデータを活用したマーケティングやパーソナライズを、行政サービスでも実現し、政策を改良する。
これが経済産業省が目指すこれからのDX推進です。
まとめ DX化には経産省のガイドライン等を参考に!
経済産業省は企業のDX推進を支援するため、ガイドラインやレポートの公開、指標を用いた分析など、さまざまな施策を実施しています。
これからDX推進に取り組む際は、ぜひそうした資料や機会、ツールを活用してみてください。
DX認定やDXセレクション選定などを目標に取り組みを進めるのも良いでしょう。