DXとは、デジタルテクノロジーを使用して、ビジネスプロセスや顧客体験を新たに創造したり、既存のそれらを改良したりことで、ビジネスや市場のニーズを満たすプロセスのことを指します。
DX推進が叫ばれる理由はいくつかありますが、そのひとつに経済産業省が2018年9月に提唱した「2025年の崖」と呼ばれる現象があります。
レガシーシステムにより、2025年を節目として日本企業が直面するとされているこの2025年の崖に立ち向かうため、企業はDX推進に取り組む必要があるのです。
ここでDX推進の成功を左右するキーとなってくるのが、どのようにDXを進めていくのかを決定する「ロードマップ」の策定と組織内での共有です。
この記事では、企業がDX推進におけるロードマップの重要性や2通りの具体的な策定方法を紹介していきます。
DX推進にはビジョンとロードマップの設定が必要不可欠
DX推進に取り組む企業の中でも、ビジネス変革に成功する企業とそうでない企業があります。
DX推進に成功した企業の多くは、ビジネスとITシステムを一体的に捉えており、またデジタルテクノロジーを導入することによる変化が自社にどのような影響をもたらすのかを踏まえた上で、経営ビジョンやDX推進のためのロードマップを策定します。
それらの実現に向けてビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーを組み立てていくのです。
一方、なんとなく「DX推進をスタートしたい」と考えている企業や、組織内の一部の人間のみでデジタルツール導入を決めるなど見切り発車となってしまうケースも少なくありません。
日本能率協会が発表した調査結果によると、2020年9月24日時点で既に日本国内における5割強の企業がDX推進やその検討に着手していたとされています。
しかし、そのうち「ビジョンや戦略、ロードマップが明確に描けていない」「具体的な事業への展開が進まない」と答えた企業は、それぞれ77.7%と76.0%という結果になりました。
上記のように路頭に迷ってしまっては元も子もありません。
そこで、企業においてDX推進を成功させるために必要不可欠となるのが、「ビジョン」および「ロードマップ」の策定です。
DXのビジョンは、DX推進に取り組んでいく中で企業の核となり、DX推進が成功した際の「企業のあるべき姿」を決定するものです。
ロードマップ策定がビジネス変革のカギとなる理由
同時に重要になってくるのが、今回解説していく「ロードマップ」の策定となります。
長期的かつ大掛かりなDX推進を成功させビジョン通りの組織変革を実現するためには、経営者を筆頭に組織全体でDXに取り組む必要があり、部門や少数の担当者にタスクが偏ることのないよう、ロードマップを適切に策定する必要があります。
また、ロードマップを最適化することにより明確化されるのは、経営者や従業員が取り組むべきタスクだけではありません。
そのタスクの解消に対する効率的なアクションやアプローチの方法、コストの削減、理想的な組織体制の構築が明確になり、実現可能性を向上させることができるのです。
策定方法①全6ステップに沿ってロードマップを策定する具体的な方法
ここまでに紹介してきた通り、企業のDX推進を成功させるためにはロードマップが必要不可欠となります。
以下では、1つ目のロードマップ策定方法として、全6ステップに沿ったロードマップ策定方法の具体的な手順を解説していきます。
ステップごとにポイントを抑えて解説していきますので、これからDX推進に取り組む企業や、「現在DX化に着手しているが思うように進まない」という経営者や従業員の方は是非参考にしてみてください。
ステップ1.【全社戦略】目的や目標を明確にする
まずは、DX推進において重要となるビジョン(ゴールや目標)を明確にすることから始めましょう。
DX推進は、経営者をはじめとする上層部など一部の意見や目標だけで進めていくのではなく、各部門の参加も重要となります。
各部門からも意見や目標を募ることで、全社戦略を設計することが出来ますし、自社におけるDXの活用方法といったプロセスやゴールを明確化・細分化することができるでしょう。
部門ごとにDX推進の重要性やレガシーシステムとの関わり方が異なるため、意見がまとまりづらいこともあるかと思いますが、調整を繰り返すことで自社がDX推進に取り組む目的を明確にすることができます。
その上で、全社の誰もが納得して取り組むことのできるゴールや目標など、ビジョンを策定していくことが重要です。
ステップ2.現状の分析と把握
DX推進に取り組んでいく上で、ビジョンを明確化するとの同様に、現状の業務に関する課題の分析や把握も重要です。
社内でアンケートを実施したり、競合のDX推進状況をリサーチしたりすることによって、業務における現状分析を行います。
これにより、自社における業務の課題を洗すのはもちろん、競合と比べたときの自社の立ち位置や優位性も可視化することができます。
これにより、自社が解決していくべき課題や、DX推進によってどのように業務効率化・生産性向上を実現することができるのかが明確化され、他社との差別化を図るための施策実施が可能となるでしょう。
また、業務効率化や生産性向上を実現できるとなれば、これはDX推進によるメリットとなります。
DX推進への対応に消極的な従業員や、レガシーシステムに依存している部門に対して「DX推進のメリットを的確に伝える」というアクションもしやすくなるのです。
ステップ3.KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の設定
ロードマップを正しく機能させるため、またDX推進の過程において自社が進むべき道筋をチェックするためにはKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)の設定も欠かせません。
KPIは、「短期」「中期」「長期」といった各段階における目標と、それに合わせた明確な数値の設定をする必要があります。
これをしっかりと可視化することによって、社内の誰もがひと目で現状を把握することができるでしょう。
段階ごとに達成すべき数値が設定されていなければ、各フェーズでの目標が曖昧になってしまい、始めに設定したビジョンの実現への道のりがより長期化されてしまします。
KPIを設定する際は、「短期」「中期」「長期」の各段階に最適化した数値を見極めることが重要です。
ステップ4.システム等のデジタル化を進める
KPIまで設定することが出来たら、アナログで行っている業務や扱っているデータといったレガシーシステムをデジタル化していきましょう。
ただし、全社・全部門のデータや業務を一斉にデジタル化することはコストや管理の負担という観点から考えると現実的ではありません。
DX推進においては、部門ごとに適切なデジタルツールを選定・導入し、全社で共有しやすいようにする必要があるため、デジタル化の優先順位をしっかりと振り分けた上で進めていくようにしてください。
また、業務やデータをアナログからデジタルに移行した結果、どれくらい業務を効率化できたのか、どのように最適化されたのかなどといった項目を明確に数値化することも大切です。
ステップ5.ビジネスモデルのデジタル化を進める
レガシーシステムで対応していた業務やデータをデジタルで管理できるようになったら、ビジネスモデルをデジタル化するフェーズに入ります。
ここまでに解説してきたロードマップ策定における4つのステップを踏まえた上で、DX推進によってどのようなビジネスチャンスを創出することができるのか、どのように企業価値を向上させることができるのかを考えましょう。
ビジネスモデルをデジタル化する際には、企業理念や行動方針といった企業の根幹を見直さなければいけないケースも出てきます。
そのため、部門ごと・一部の部門だけではなく、経営者を筆頭にしてロードマップを策定しビジネスモデルをもデジタル化することで、企業のDX推進を成功へと導くことができるでしょう。
策定方法②「DX加速シナリオ」に沿ってDX推進におけるロードマップを設定
2020年12月28日に経済産業省が発表した「DXレポート2 中間とりまとめ」において、企業の取るべきアクションがまとめられた「DX加速シナリオ」が提唱されました。
DX加速シナリオは3段階になっており、それぞれのフェーズで取り組むべきアクションが記載されています。
DX加速シナリオの3段階は以下のとおりです。
DX加速シナリオの3段階
- 直ちに(超短期)取り組むアクション
- 短期的対応
- 中長期的対応
企業がデジタル企業へ変革するためのプロセスを歩むためには、社内の状況に応じてアクションを起こしていく必要があります。
そのため、上記の3つの段階は「すべて順に検討しなければいけない」というわけではなく、時期や期間に最適化されたアクションを設計するための指標です。
デジタイゼーションがまだ不十分な企業であっても、DXを検討することは可能ですし、すぐに実施可能な状況であればそのアクションを即座に取り組むことも可能でしょう。
以下でDX加速シナリオの3段階で取り組むべきアクションをそれぞれ解説していきます。
1.直ちに(超短期)取り組むアクション
日本国内の企業におけるDX推進状況について、2020年のDX加速シナリオが発表された時点では、事業環境の変化に迅速に適応できた企業と、そうでない企業の差が大きく開いていました。
具体的には、全体の9割以上がDX未着手企業(DXについて知らない)、もしくはDX途上企業(DXを進めたいが、散発的な実施に留まっている)という状況です。
このような企業が直ちに取り組むべきとして挙げられているアクションは下記のとおりです。
DXの認知・理解 | DX事例集の提供 |
---|---|
知見を集める場の提供 | |
DX成功パターンの策定 | |
製品・サービス活用による事業継続・DXのファーストステップ | ツール導入に対する支援 |
企業が「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けるためには、上記のように「DXへの認知と理解を深めること」が必要不可欠です。
DXレポートやDX推進指標とそのガイダンス、デジタルガバナンス・コードなどを参照することでDXについて認知し、理解を深めましょう。
また、事業継続を可能とする最も迅速な対処策としてデジタルツール・ サービスの導入も進めてください。
具体的には以下のようなことが挙げられます。
- 業務のオンライン化
- 業務プロセスのデジタル化
- 顧客設定のデジタル化
- 従業員の安全・健康管理のデジタル化
このようなデジタルツールやサービス導入による成功を、「経営トップのリーダーシップにより企業文化を変革する小さな成功体験」とすることで、変化を受容し歓迎する組織文化への転換の起点を生み出すことが可能となります。
2.短期的対応
「短期的対応」として、DXレポート2では次のような「DX推進体制を整備すること」が挙げられています。
DX推進体制の整備 | 共通理解形成のためのポイント集の策定 |
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DX戦略の策定 DX成功パターンの策定 | CIO/CDXOの役割再定義 |
DX成功パターンの策定 | |
デジタルガバナンス・コード 業種別リファレンスケース |
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デジタルガバナンス・コード/DX認定 | |
DX推進状況の把握 | DX推進指標等 |
レガシー刷新の推進 |
昨今では、コロナ禍の影響を受け、人々の固定観念が変化したことにより、テレワークなどをはじめとしたデジタルによる社会活動の変化が多く見られています。
このような社会活動の変化は元に戻ることがなく、つまりビジネスにおける価値創出の中心はデジタルの領域に移行したと言えるでしょう。
これによって「直ちに(超短期)取り組むアクション」は多くの企業が実施済みだと思います。
そこでDX推進が滞ってしまうのは、この「短期的対応」で提示されているDX推進体制の整備が追いついていない、戦略が不十分である可能性が非常に高いです。
短期的対応では、DX推進体制を整備するとともに業務プロセスを再設計するなどDX戦略を見直し、経済産業省発行の「DX推進指標」を利用して定期的に社内状況を把握することも忘れないようにしましょう。
3.中長期的対応
「短期的対応」を実行に移した企業が、迅速に変わりつづける能力を獲得し、デジタル企業への変革を遂げるためには「中長期的対応」のアクションを実行する必要があります。
中長期的対応における具体的なアクションは以下の通りです。
産業変革のさらなる加速 | ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進 |
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研究開発に対する支援 | |
デジタル技術を活用する変革の支援 | |
デジタルプラットフォームの形成 | 共通プラットフォーム推進 |
デジタルアーキテクチャ推進 | |
DX人材の確保 | リスキル・流動化環境の整備 |
まずは、これまでに導入してきた高付加価値なデジタルツールやサービスによって競争力を維持する企業への転換を加速させましょう。
デジタルプラットフォームを形成し、業務プロセスを標準化することで、デジタルアーキテクチャ推進の実現が可能となります。
更に、社外を含め多様な人材が参画する時代を見据えたジョブ型人事制度の拡大も検討してみてください。
ベンダー企業とのパートナーシップ構築や、社内の人材スキルの見える化などによって恒常的なスキルのアップデート(リスキル)が推進される環境の整備を行いましょう。
記事まとめ
この記事では、企業がDX推進におけるロードマップの重要性や2通りの具体的な策定方法を紹介しました。
企業がDX推進に取り組む際に策定すべきロードマップには、以下の2つの方法があります。
- 全6ステップに沿ってDX推進ロードマップを策定する
- 「DX加速シナリオ」に沿ってDX推進におけるロードマップを設定
今回紹介した上記の方法に沿ってロードマップを策定したら、日々変化する状況への柔軟な対応を含めた上で企業のDX推進に取り組んでいくことが求められます。
ビジョンや戦略を明確化した上で、全社的なDX推進を成功に導くべくロードマップを作成してみてください。