DX推進の際には必ずビジョンを設定する必要があり、実際にDX推進に成功した企業の経営者のほとんどがビジョンを発表しています。
いったいなぜDX推進においてビジョン設定が大切なのでしょうか?
この記事では、DX推進におけるビジョンの必要性や、DX推進の基本的な流れ、ビジョンの策定方法などについて詳しく解説します。
DX推進の基本的な流れを解説
まずはDX推進の基本的な流れを、6ステップに分けて解説していきます。
①現状の調査
最初に行うべきなのは現状の分析です。
特に以下の内容はDX推進を効率的に進めるうえで重要なので、丁寧に調査すべきです。
- 技術や人材・システムといった自社リソース
- DXに成功もしくは失敗している他社の事例
- 顧客のニーズやインサイト
これらを分析することでDX推進の過程で改善すべき箇所や、成し遂げるべき目標の方向性をはっきりさせることができます。
②DXに関するビジョン・経営計画の策定
続いてDXによって何を成し遂げたいかを決める必要があるので、ビジョンや経営計画の策定を行います。
DX推進によって何を成し遂げたい内容を決めることで、プロジェクトの進行途中を軸がブラすことなく、ゴールにたどり着けるためです。
一方で、ビジョンや計画が不明瞭なままDX推進を始めると、途中で行き詰まったり想定外の結果になってしまう可能性があります。
そのため、必ずビジョンや計画を定めDX推進によって企業が目指す姿を明確にしましょう。
③ロードマップの策定
ビジョンや経営計画によって、DX推進のゴールを定めたら具体的な手順をまとめたロードマップを策定します。
ロードマップの完成度によってDX推進がスムーズにいくかどうかが決まるので、慎重かつ丁寧に作り込む必要があります。
策定の際には、経営層だけでは実践可能かどうか判断しきれないため、現場とも連携して決めていきましょう。
具体的には、以下の内容を決め社内全体で共有しましょう。
- 何にどのくらいの予算をかけるのか
- どこの部署がどの業務を担当するのか
- 何をいつまでに終わらせるのか
ロードマップ策定は、DX推進の成否を分ける重要なステップなので、特に慎重に行う必要があります。
④DX推進組織の構築・変革
ロードマップが完成したら、DX推進のための組織を構築していきます。
DX推進は企業の在り方そのものを変える巨大プロジェクトなので、ビジョンを達成するためには、織体制そのものをDX推進のために変更する必要があります。
DX推進の組織体制としては以下の3種類が考えられます
- IT部門拡張タイプ:従来のIT部門を拡大する
- 事業部門拡張タイプ:各部門内にDX推進部門を設立する
- 専門組織設置タイプ:DX推進を専門に担当する部署を設立する
それぞれ簡単に説明します。
IT部門拡張タイプ:従来のIT部門を拡大する
IT部門のメンバーがDX推進部門を兼任し、DX化を進めていくタイプの組織編成です。
デジタルスキルを保有しているメンバーばかりなので、新規システムの導入やシステム変更はスムーズに進む可能性が高いでしょう。
ただし、企業のビジネス全体を把握している人材が部門内にいないので、ビジネスモデルの変革によるビジョン達成は難しい可能性があります。
事業部門拡張タイプ:各部門内にDX推進部門を設立する
事業部門がDX推進を進めるタイプの組織編成です。
ビジネスの現場を熟知している人材がDX推進を行うため、顧客のニーズに沿った変革ができるのがメリットです。
一方、デジタル技術の専門家が部門内にいないため、IT部門の手助けがないとデジタル技術活用がうまくいかない可能性が高いでしょう。
専門組織設置タイプ:DX推進を専門に担当する部署を設立する
既存部門がDX推進を兼任するのではなく、DX推進専門の部署を立ち上げる方法です。
DX推進のためにはデジタルやビジネスなど様々スキルが必要なので、この組織タイプが最もDX推進に成功しやすいと言えます。
社内の優秀な人材を集めて一気にDX推進できるため、設定したビジョンを実現しやすく、DX化に成功した企業の多くがこのタイプの組織組成を行っています。
ただし、専門組織設置タイプには、経営層とDX推進部門の独断でプロジェクトを進めてしまい、他部署が置き去りになるケースがあります。
こうなってしまうと、DX推進失敗の要因になりうるため、企業全体で進捗を共有し他部署と連携しながらビジョン実現に向けて進むことが重要です。
⑤実行
ビジョンの策定や組織構築といった下準備が整ったら、実行し移りましょう。
ただ、いきなり企業全体でDX推進に取り組むのは考え物です。
DX推進には莫大な労力や費用がかかるため、いきなり会社の在り方をそのものを変えようとすると、反発を招く可能性が高いからです。
様々な部署・部門の協力や理解を獲得するためにも、データや業務のIT化による業務効率化を推進し、デジタル化による業務効率化を行うことから始めるのがおすすめです。
デジタル化の恩恵を実感することで、会社全体でDX推進をできる土台が整ったら、全社規模でのDX推進を行うといいでしょう。
⑥定期的なPDCAサイクルによりビジネスモデルの変革まで繋げる
DX推進を実行し始めると、必ずうまくいかないことが出てくるので、定期的にPDCAサイクルを回しながら進めていきます。
具体的には以下のような点で、行き詰まる可能性が非常に高いと言えます。
- ほかの部署との連携がうまくいかない
- 採用や育成で行き詰まり人材を確保できない
- システムの導入や回収がスムーズにいかない
こういった壁を乗り越えていかなければ、DX推進に成功することはできません。
DX推進はビジネスモデルそのものを変革する大きなプロジェクトです。
簡単に達成できるものではないので、PDCAを回しながら長期的な視点でプロジェクトを行う必要があるでしょう。
DX推進においてビジョンを描く必要性とは?
DX推進を実行する前に、必ずビジョンを描く必要があります。
いったいなぜビジョンを描くのが大切なのでしょうか?
ここではビジョンの必要性や、DX推進を目指す企業が描いているビジョンの具体例を紹介します。
ビジョンの必要性
DX推進を行う上で、ビジョンを描くことは必須と言えます。
ビジョンが中核にあることで、各部署のプロジェクトや行動に一貫性が生まれ、共通の目標に向かって進むことができるからです。
もしも、ビジョンが設定されていなければ、各部門のプロジェクトが有益なものであったとしても、組織全体としての力が生まれることはないでしょう。
ビジョンが土台となってDX推進という大きな目標を達成できるので、DX推進を始める前にビジョンを設定することが非常に重要なのです。
ビジョンの具体例
DXビジョンの具体例には一体どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは2社のビジョンを紹介するので、ぜひ自社がビジョンを設定する際の参考にしてみてください。
富士フイルムホールディングス
富士フィルムホールディングスのDXビジョンは以下の通りです。
わたしたちは、デジタルを活用することで、一人一人が飛躍的に生産性を高め、そこから生み出される優れた製品・サービスを通じて、イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決に貢献し続けます。
まとめると以下の内容が、富士フィルムホールディングスのビジョンとなっています。
- 収益性の高い新たなビジネスモデルの創出と飛躍的な生産性向上
- イノベーティブなお客さま体験の創出と社会課題の解決
これらのビジョンが明確になっていることで、企業全体が目指す方向性がはっきりし、必要な取り組みがはっきりとすることでしょう。
また、外部のステークホルダーに対して、どういった取り組みをしているかを見せる上でもビジョンが役に立ちそうです。
味の素株式会社
味の元株式会社では、ビジョンとして以下の内容を掲げています。
アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します
2030年までに、「10億人の健康寿命の延伸」「環境負荷50%削減」という結果を両立することを目指し、企業ブランドの価値や時価総額向上が最終ゴールとなっています。
ビジョンの策定方法を詳しく解説
ビジョンはDX推進に必要不可欠ですが、一体どのようにビジョンを設定すればいいか分からない方も多いでしょう。
ここでは、DX推進実現に向けビジョンを設定する方法を解説します。
会社の基本的な理念を明確にする
最初にすべきことは会社の基本理念を明確にすることです。
企業の基本理念とは、以下のようなものを指します。
- 社会における企業の存在価値
- 事業により社会に提供できる価値
これらを明確にすることで、会社が社会に対して提供できる価値を見える化でき、ビジョン設定に役立てることができます。
自社の強みを分析する
次に自社の強みを分析して、どういった点で自社が市場での競争力を持っているのかを探ります。
この工程では、他社が真似しにくく顧客からニーズのある内容を発見する必要があります。
10年後や20年後を考える
DXのビジョン策定の際には、10年後や20年後といった未来を想像するのも重要となります。
10年後や20年後といった未来を想像して逆算することで、今すべきことが明らかになるためです。
おかしなビジョンを設定し誤った方向に進むのを避けるために、顧客の需要や業界の変化を予想しましょう。
自社が果たせる役割を考えビジョンを策定する
続いて、ここまでに明らかにした自社の強みとデジタルを組み合わせることで、社会の中で自社が果たせる役割を考えビジョンを決定します。
このステップで、DX推進によって自社がどのような姿に変化するのかを決定することになります。
言語化して共有できるようにする
ビジョンができたらそれで終わりではなく、社内やステークホルダーにビジョンを伝える必要があります。
だれが見ても内容が分かるように、理解しやすい表現でビジョンを言語化することが重要です。
ロードマップを策定する必要性とは?
DX推進の実現にはビジョンが必要不可欠ですが、同様にロードマップも策定する必要があります。
ここからはロードマップ政策の必要性や、DX推進中の企業のロードマップの具体例をお伝えしていきます。
ロードマップの必要性
DX推進で結果を出すには、ビジョンのみならずロードマップも必要不可欠です。
ロードマップを作成することで各部門や従業員がすべき作業内容が明確になり、DX推進完了までのステップを効率的に進められるからです。
また、DX推進の全体像が明確になるので、無駄な部分に費用をかけ無駄なコストが発生するすることを防げる効果もあります。
ロードマップの具体例
具体的に、DX推進のロードマップにはどういったものがあるのでしょうか?
2社のロードマップを紹介するので目を通してみてください。
九州電力
九州電力は2022年10月にDXロードマップを発表してます。
そのなかで、大きく分けると以下の6つの取り組みによって、DX推進を図ると書かれています。
- DX人材・ リテラシー向上
- ICT基盤 構造改革
- アジャイルの推進
- データ活用推進
- イノベーション
- 業務改革
これらの取り組みを通して、2030年までにDX推進を実現させ新規事業の創出や収益アップを目指しています。
富士フイルムホールディングス株式会社
富士フイルムホールディングス株式会社は、ホームページ内でDXロードマップを発表しています。
その中で以下の3つのステップに分けて、DXを推進していくと記載されています。
- モノ=機能価値の継続提供
- アウトカム=利用価値の継続的な最適化
- 持続可能な社会をさせる基盤として定着
これらの3つのステップを2030年までに成し遂げることで、顧客のみならず社会全体に影響範囲を広げていく見込みです。
参照:DXロードマップ | 富士フイルムホールディングス株式会社
ロードマップの策定方法を詳しく解説
DX推進を効率的に進めるために、ロードマップの策定が必要不可欠です。
ここではロードマップの制作方法を詳しく解説していきます。
ロードマップ策定で役立つフレームワーク
3C分析
3C分析は以下の3種類を分析するフレームワークを指します。
- Customer:顧客
- Company:自社
- Competitor:競合
3C分析を行うことで、顧客のニーズや行動に対する、自社や他社の戦略が明らかになります。
競合他社と比較した自社の強みが明らかになるので、今後進むべき方向性がはっきりします。
4C分析
4C分析では、3C分析とは違い以下の4つを分析します。
- Customer Value:顧客価値
- Customer Cost:顧客の経費・負担
- Convenience:利便性
- Communication:コミュニケーション
このように4C分析では対象を顧客に絞って、4種類の分野を分析するフレームワークです。
競合を意識せず顧客にフォーカスするので、すでに成熟したレッドオーシャンの市場に参入する際に力を発揮します。
SWOT分析
SWOT分析では以下の4種類を分析します。
- Strength:強み
- Weakness:弱み
- Opportunity:機会
- Threat:脅威
SWOT分析を実施することにより、自社の伸ばせる点と改善点を客観的に理解できます。
PEST分析
PEST分析とは、以下4つ分析するフレームワークを指します。
- Politics:政治
- Econoomics:経済
- Society:社会
- Technology:技術
こちらは会社外部のみに焦点を当て、時代にあった経営戦略を策定するためのフレームワークとなっています。
ロードマップ作成手順
現状分析
ビジョンを決定したとき同様、ロードマップ作成時にも現状分析を行う必要があります。
ただし、今回はこれからの行動計画を立てるための現状分析のため、ビジョン制定時以上に詳細に現状を確認しなければなりません。
競合との比較によって自社の立ち位置を確認したり、業務フローを見直し業務上の課題を見つけたらして、現状を分析しましょう。
そうすることで、DX推進によって解決すべき課題や、企業が目指す姿が見えてくるはずです。
KPIを設定する
続いて、KPI(重要業績評価指標)を設定します。
DX推進がロードマップ通りに進んでいるかを確認するには、現状を客観的に見ることができる必要があります。
各段階ごとにどの程度の数値がクリアすべきかを考慮し、それぞれの段階に適したKPIを設定しましょう。
システム・データのデジタル化を計画する
KPIを設定したら、アナログやレガシーシステムで行われている業務のデジタル化を計画します。
現状分析の段階で判明した、業務効率の改善が必要な箇所を中心にシステム導入を計画しましょう。
また、デジタル化を計画する際は、導入時にシステムが正常に動作しないなどのトラブルが起こることも考慮し、部署単位で小さなところからデジタル化するようにしましょう。
最終的に企業全体のDX化が達成できれば問題ないので、全部署で一斉にデジタル化を行う必要はありません。
ビジネスモデルのデジタル化を計画する
業務のデジタル化を計画したら、続いてビジネスモデル全体のデジタル化を予定に組み込みます。
ビジョン達成のため、どのような企業の姿を実現すべきかを考慮したうえで、デジタル化を進める順番を決めていきましょう。
ここがしっかり決まっていないと、DX推進が途中で頓挫することも珍しくないので、綿密にロードマップを作り込む必要があります。
【記事まとめ】DX推進のビジョンとは?
DX推進におけるビジョンとは、DX推進を成し遂げることで実現できる、会社の姿を示したものです。
そのため、DX推進を進める際にはあらゆる行動の中核となるのが、ビジョンであると言えます。
ビジョンを決めずにDX推進を行うと、社員の行動や思考に一貫性が出ず、想定外の結果が出る可能性もあります。
想定通りの結果を出し、企業の競争力や売上のアップを達成するには、行動に移る前に必ずビジョンを設定するようにしましょう。