DX推進の目安としては、IPA(情報処理推進機構)が定める「DX推進指標」が役立ちます。
とくに「DXに関心はあるものの具体的な方法がわからない」「自社の現状を診断したい」といった場合に便利です。
この記事では、そんなDX推進指標について解説します。概要からメリット、活用方法のポイントまで、幅広くお伝えするのでぜひ参考にしてください。
DX推進指標とは
DX推進指標とは、経営者や幹部、管理職らが自社のDX推進に関する現状や課題を簡単に自己診断できる「気付きの機会」です。
9つのキークエスチョンを中心とした35項目の設問に回答することで、DX推進の状況を点数化できます。
自己診断では、経営幹部のほか、事業部門やDX部門、IT部門などが各項目について議論し、回答。
自己診断の結果は、IPA(情報処理推進機構)が収集・ベンチマーキングを実施し、通知されます。
DX推進指標の構成
DX推進指標は、DX推進のための経営や仕組みを考える観点と、DX実現に向けたITシステムの構築という観点の2段階構成になっています。
また枠組みについて検証する定性指標には、キークエスチョンとサブクエスチョンの2種類があります。
キークエスチョンは経営者一人で回答する設問、サブクエスチョンは幹部や各部門と話し合いながら回答する設問です。
構成の全体像については以下をご覧ください。
■DX推進指標の構成
- DX推進のための経営のあり方、仕組み
DX推進の枠組み(定性指標)
ビジョン*
経営トップのコミットメント*
仕組み*
マインドセット、企業文化
・体制
・KPI
・評価
・投資意思決定、予算配分
推進・サポート体制*
・推進体制
・外部との連携
人材育成・確保*
・事業部門における人材
・技術を支える人材
・人材の融合
事業への落とし込み*
・戦略とロードマップ
・バリューチェーンワイド
・持続力
DX推進の取組状況(定量指標)
DXによる競争力強化の到達度合い
DXの取組状況 - DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
ITシステム構築の枠組み(定性指標)
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築*
・ITシステムに求められる要素
・データ活用
・スピード・アジリティ
・全体最適
・IT資産の分析・評価
・IT資産の仕分けとプランニング
・廃棄
・競争領域の特定
・非競争領域の標準化・共通化
・ロードマップ
ガバナンス・体制*
・体制
・人材確保
・事業部門のオーナーシップ
・IT資産の分析・評価
・データ活用の人材連携
・プライバシー、データセキュリティ
・IT投資の評価
ITシステム構築の取組状況(定量指標)
ITシステム構築の取組状況
*はキークエスチョン、その中の小項目(・)はサブクエスチョン
参考:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」
DX推進指標ができた背景
DX推進指標ができた背景には、企業のDXが進んでいない現状があります。
デジタル技術を活用して大成功を収める新興企業がある一方、たいていの企業はまだIT/ICTをフル活用できていません。
各社なりにDX推進には取り組んでいるものの、まだビジネスの「変革」には至っていないというのが全体的な実情です。
そのため、国がDX推進の指針を示すとともに、企業が自社の現状と課題を認識できる機会として、DX推進指標が設けられました。
参考:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」
DX推進指標のメリット
DX推進指標を用いた自己診断には、複数のメリットがあります。以下の内容に魅力を感じる場合は、ぜひ自己診断をお試しください。
DX推進の課題を社内で共有できる
DX推進指標を用いた自己診断では、企業の経営幹部・事業部門・DX部門・IT部門などが、各項目について議論し回答します。
そのため、DX推進にとって重要な観点について、自社の現状や課題に関して情報共有を行う良いきっかけになります。
また各部の連携を強化したり、経営者が組織構成の効率性を再認識したりする機会にもなるでしょう。
具体的なアクションにつなげる契機となる
DX推進指標の目的は、企業がDX推進の現状と課題を全社的に把握するとともに、適切なアクションにつなげることです。
具体的なアクションを議論・実行し、翌年度に再診断を受けて効果を検証するという使い方が想定されます。
そのため、自己診断の活用は、DX推進について具体的なアクションを起こす契機にもなります。
DX推進に関心はあるものの、全社的に取り組むきっかけがない、具体策が浮かばないといった企業におすすめです。
DX推進の進捗を継続評価できる
DX推進指標を用いた自己診断は、毎年継続して実施することでデジタル施策の経年変化を把握し、DX推進の進捗を確認できます。
各項目について点数が出るため、前年と比べて変革できた部分とまだ足りない部分を明確に知ることが可能です。
よって、DX推進指標を継続的に利用すれば、自社の現状に合った形でデジタル施策を変遷させられます。
またやるべきことがはっきりすることから、DX推進に対する各部のモチベーションアップにもつながるでしょう。
参考:IPA「DX推進指標のご案内」
KPIとしても活用できる
DX推進指標は、KPI(重要業績評価指標)としても有用です。
KPIとは、企業の経営目標を達成するために必要な施策が正しく遂行されているかどうかを確認する指標のこと。
DX推進指標は、まさしく企業のデジタル施策におけるKPIとして機能します。
実際、同指標のサブクエスチョンには「挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPI を設定できているか」という項目もあります。
またそもそもDX推進の目的は、データとデジタル技術の活用で事業構造を変革し、生産性の向上をもたらすことです。
そのため、DX推進指標は、経営計画全体のKPIにもなり得ます。
参考:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」
指標を用いた自己診断の方法
DX推進指標を用いた自己診断の方法は以下の通りです。3ステップで簡単に自社のデジタル施策を診断できる仕組みになっています。
1. フォーマットを用いた自己診断
DX推進指標による自己診断は、「DX推進指標自己診断フォーマット」を用いて行います。
フォーマットはIPAの公式サイトで最新バージョンをダウンロード可能です。
自己診断フォーマットを入手し、経営幹部や各部門の責任者などの関係者を集めて議論しながら、各項目に回答を記入しましょう。
なお、フォーマットの使い方については、フォーマット内でも案内があるほか、「『DX推進指標』とそのガイダンス」でも確認できます。
2. 自己診断結果をIPAに提出する
自己診断結果の記入が完了したら、IPAのWeb申請システム「DX推進ポータル」からフォーマットを提出します。
提出することでベンチマークレポートを取得できるようになります。
なお、詳しい提出方法に関しては、IPA公式サイトの「DX推進指標自己診断結果 提出方法」でご確認ください。
ベンチマークレポートについて
IPAに自己診断フォーマットを提出した企業は、ベンチマークレポートを取得可能です。
ベンチマークレポートには、IPAが各企業の自己診断を分析した結果が記載されています。
自社の診断結果と全体データを比較できるため、他社との差を意識しつつ、次に取るべきデジタル施策のアクションについて理解できます。
なお、ベンチマークレポートは11月以降に公開される速報版と、翌年2月以降の確報版の2種類です。
どちらも一般公開はされておらず、活用できるのは自己診断フォーマットを提出した企業のみとなっています。
3. 自己診断結果分析レポートを確認する
DX推進には、IPAが毎年公表する自己分析結果 分析レポートも役立ちます。分析レポートには、自己診断結果をIPAに提出した中小企業・大企業の全体的な傾向がまとめられています。
過去の分析レポートはIPAの公式サイトで閲覧できるため、一度目を通してみましょう。
また分析レポートに加え、上述した個別のベンチマークデータもDX推進ポータルから取得可能です。
2種類のレポートを活用することで、他社と自社のDX推進状況を比較しつつ、デジタル施策の次なる一手を考えられます。
参考:IPA「DX推進指標のご案内」
指標を用いる際の注意点
DX推進指標の自己分析を活用する際は、以下の点にご注意ください。
目的は良い点数を取ることではない
DX推進指標の自己診断では、各社のデジタル施策について点数が算出されます。しかし、DX推進指標を活用する目的は、良い点数を取ることではありません。
真の目的は、自己診断に至るまでの過程で経営幹部と各部門がDX推進について議論し、現状と課題を正しく認識すること。そしてその上で適切なアクションにつなげていくことです。
そのため、DX推進指標はむしろ点数が低い企業にこそ必要なものだといえます。
また自己診断を毎年実施する場合、重要となるのは点数の絶対値ではなく、前年以前と比較した場合の相対値です。
DX推進指標はビジネスモデル自体を評価しない
DX推進指標の主眼は、ビジネスモデル自体の評価でなく、デジタル化という社会の変化に対する企業の対応力を明確化することにあります。
つまり自己診断のレベルが高いことと、ビジネスモデルが優れていることは、別次元の話ということです。
言い換えれば、DX推進が必ずしも経営の抜本的な改善につながるとは限りません。
経営にはやはり経営計画が肝心であり、DX推進およびDX推進指標は、企業の経営目標を達成するための手段として捉えるのが望ましいといえます。
経営者自身がITシステムの問題に向き合うべき
DX推進指標の自己診断は、経営者自身がITシステムに関する問題と主体的に向き合い、アクションを起こすことではじめて有効になります。
DX推進が進まない企業では、経営者がITシステムの問題をIT部門任せにしているケースが多いです。
しかし、決裁権を持っているのは経営者なので、経営者自身が自ら学び、取り組まなければ、より良いデジタル施策にはなりません。
このことについては、経済産業省も「号令だけでは、経営トップがコミットメントを示したことにならない」と痛烈に指摘しています。
DX推進指標には、経営者自身が答える9つのキークエスチョンがあります。まずはこの設問に正しく回答できるよう、経営者自らもICTやDXについて真剣に勉強しましょう。
参考:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」
指標を有効活用するポイント
DX推進指標を活用する際は、以下のポイントを意識するのがおすすめです。
わかりやすい目標を掲げる
DX推進指標の自己診断は、経営幹部と各部門の責任者をはじめ、社内の関係者が話し合いながら全社的に進めるものです。
そのため、社員全員が簡単に覚えられて足並みをそろえられるような、わかりやすい目標を設定するのが望ましいといえます。
全社的に取り組むことで部門同士の連携もしやすくなり、効率よくDX推進を実現できるでしょう。
自社に合った形に変換して活用する
DX推進指標は、あらゆる面で標準的な企業を想定して作られているため、事業内容や業種などによってはマッチしにくいこともあります。
そのため、指標をそのまま適用するのではなく、自社に合わせて変換して活用するという意識も大切です。
上述の通り、DX推進指標はあくまで企業の経営目標を達成するための手段。臨機応変に形を変えながら自社の施策に最大限活かすのが正しい使い方といえます。
指標を有効活用してより良いDXを!
デジタル施策に関心のある企業は、DX推進指標を成功のきっかけにしましょう。
企業内の関係者で議論しながら自己診断を進めることで、各部門の連携強化や全社的なモチベーションアップにもつながります。
これを機会にぜひ、指標を有効活用したDX推進に向けて行動を始めましょう。