現在、多くの日本企業がDX推進の必要性を認識し、システムの導入などを実施しています。
しかし、デジタルテクノロジーを導入してみたはいいものの、業務の本格的なDXや部署間での連携、組織全体でのDX推進に様々な課題を抱えているケースが非常に多いのが実情です。
そこでこの記事では、それらの課題を解決し企業のDX推進を成功に導くために、「DX推進部署」の必要性や、DX推進の専門部署の構成、組織作りのポイントなどについて解説していきます。
DX推進の専門部署はなぜ必要なのか
企業のDX推進は、経営者を含む上層部や本部、各部門のリーダーなど一部の人材のみで実現できることではありません。
そこでまずは、DXの概要と企業がDX推進によって実現すべき姿を確認していきます。
まずはDXと実現すべき2つのことを理解する
そもそもDXとは、デジタルテクノロジーを導入することによって、業務フローを改善したり、従来とは異なる革新的なビジネスモデルを創出したりすることです。
加えて、アナログのレガシーシステムからの脱却、企業風土や文化の変革を実現させることを意味します。
また企業のDX推進においては、変化の激しい時代のなかで市場における競争優位性を維持し、向上し続けることも求められます。
上記の通り、企業がDX推進によって実現すべきこととして、新しいデジタルテクノロジーを活用することによる業務フローや企業自体の「変化」がまず挙げられます。
さらに、従来の業務プロセスにはない新たなプロセスの採用や、大きな変更を伴うケースもあるでしょう。
そのため、既存のデジタルシステムの運用保守などを行う「維持」も必要です。
「変化」については、デジタルテクノロジーの導入や企業理念など会社全体のデジタル移行に対する検討を進めます。
そして、これら上記の2つをDX推進によって実現するために必要になってくるのが、各部門の連携・協力と「DX推進部署」です。
DX推進部署の役割
在宅ワークの一般化、非接触型サービスの提供など、2019年の新型コロナウイルスの流行によって多くの日本企業がDX推進に取り組みました。
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、「DXに関する予算、体制など、『コロナ前』と大きく変わらない」といった回答が見られた一方で、「DXとして取り組む領域が増え、予算や体制が拡大」にといった回答が目立ちました。
また、「IT人材の採用・育成」の機能や役割の重要度も高まっています。
しかし、未だDX推進の専門的な部署が企業内に存在しておらず、情報システム部門、いわゆる「情シス」がDX推進に対して中心的な役割を担っている企業が多いのも実情です。
このように、情報システム部門に頼り切っているような状況では「変化」と「維持」とを分けて、プロジェクトを管理することは難しくなります。
そこで、構築すべき部署が「DX推進部署」です。
DX推進部署の役割は、単に企業のデジタライゼーション(特定の業務プロセス全体のデジタル化)やデジタイゼーション(業務フローの一部のデジタル化)を進めるだけではありません。
DX推進部署の業務内容
- 現状における課題の把握と可視化
- DX戦略の策定
DX戦略とは:企業が市場での競争優位性を維持・強化するために、デジタルテクノロジーを活用した製品・サービスなどを創出するための行動計画とアプローチ
- ビジネスアジェンダに沿ったビジョンとDX推進ロードマップの策定
- 社内全体のプロジェクト管理
- DX予算の管理
- IT人材の育成や確保
DX推進部署が上記のような業務を担うことによって、全社レベル・部門を横断する形でDX推進を実施することが可能となります。
また、IT・デジタルに強い「IT人材」は各部門に必要でしょう。DX推進部署はIT人材の育成や採用などにも有用となるはずです。
つまり、DX推進部署には、各部門に技術的な知見を提供したりシステムを導入したりするのみならず、ビジネス視点・テクノロジー視点双方からの変革をリードする役割が強く求められるのです。
参考:「日米企業のDXに関する調査結果」一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)
DX推進組織の3つのタイプと仕事内容
ここまで、企業におけるDX推進部署の必要性や、担う業務内容について解説してきました。
このDX推進部署には下記3つのタイプがあります。
- IT部門拡張型DX推進部署
- 事業部門拡張型DX推進部署
- 専門組織設置型DX推進部署
それぞれ異なる特徴とメリット、そしてデメリットを持っています。
社内でのDX推進部署立ち上げをご検討の企業の方は、自社に最適なDX推進部署タイプを見つけるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.IT部門拡張型DX推進部署
IT部門拡張型DX推進部署タイプは、既存のIT部門を拡張することでDX推進部署を構築します。
既存のIT部門は、そもそも社内の中でも特にITに詳しいメンバーで組織されているはずです。
そのため、新しいデジタルツールやサービスの導入、システム開発などのデジタライゼーションやデジタイゼーションにスムーズに対応できるというメリットがあります。
しかし、この既存のIT部門がシステムの保守・管理を主業務としているシステム管理部門だったというケースもあるでしょう。
この場合は、DX推進の本質であるビジネスモデルや企業風土、理念の変革までに至らず、ツール導入や部分的な業務効率化といった単なるデジタル化で停滞してしまう可能性があります。
上記のように、DX推進部署がIT部門拡張型である場合、「DX途上企業」で留まってしまうというデメリットも想定できるでしょう。
このデメリットの解消法としては、下記のような方法が挙げられます。
- ローテーションでDX推進部署のメンバーを現場(事業部門)に派遣する
- 異なる事業部門のメンバーをチームに加入させる
- DX推進の知見や実績がある外部の人材を採用する
2.事業部門拡張型DX推進部署
2つ目に挙げられるのが、事業部門を拡張してDX推進部署を構築するという方法です。
現場である事業部門はレガシーシステムに依存していることが多いのです。
そのため、他の部署が突然参入してDXを押し進めようとした場合、その部門がDX推進によって受けられる恩恵をしっかりと理解してもらえないと、DX推進に対して消極的になってしまうケースが散見されます。
そこでおすすめなのが事業部門拡張型DX推進部署。
事業部門を拡張したDX推進部署になるため、現場サイド(デジタルテクノロジー導入による変化を大きく受ける当事者)に沿った押し付けではないDX推進を実現できることがメリットと言えます。
一方で事業部門拡張型の場合、先述したIT部門拡張型DX推進部署と比較して、デジタルに関する知見を持つ担当者が少なくなる可能性があるという課題が浮上してしまいます。
デジタルへの知識が少ないままでは、DX推進による実現可能性や、逆に不可能性の判断が難しくなるでしょう。
そのため、コストやリソース、技術など様々な面で実現困難な施策が提案されてしまい、DX推進に思うように取り組めなくなるといったデメリットが考えられます。
ただしこのデメリットは、IT部門と連携することで解消することができます。
施策やDX戦略、システムの導入や運用を実現できるかどうか、IT部門と連携して都度確認するようにしましょう。
3.専門組織設置型DX推進部署
ここまで、既存の部門を拡張してDX推進部署を構築する方法を紹介してきました。
しかし、専門組織設置型DX推進部署の場合は、既存の部門を拡張するのではなく、DX推進のための専門部署を新たに組織します。
専門組織設置型の場合は、社内のみならず、DXに対するノウハウや実績を持つ人材を社外から迎え入れたり、他企業との連携も実現しやすくなります。
これによって社内にはないDX推進のビジョンの見える化や最適なロードマップの策定が可能となり、より一層のイノベーションを期待できるでしょう。
ただし、専門組織設置型にもデメリットはあります。
この専門組織設置型のDX推進部署がDXを斡旋する場合に注意すべきことは、チームの協調性をコントロールしなければならないということです。
組織専門設置型の場合、部署が0から、新しく設立されます。
つまり、これまで連携がなかった各部門、または社外からIT人材を登用することになるため、初めのうちは意見がまとまりづらい・そもそも意見が出ないといったことが想定できます。
これを解消する方法として最も有効なのは、部署内にマネジメントに強い担当者を加えることです。
マネジメント経験のある人材を加入させることで、より円滑な部署内のコミュニケーションを実現することができるでしょう。
部署の構成に必要な事項を紹介
DX推進部署には3つのタイプがあることがわかりました。
しかし単に部署を設置しただけでは、他部門とうまく連携が取れない・デジタルテクノロジーの導入のみでDXが頓挫してしまう、といった課題が出てきてしまう可能性も否めません。
そこでここからは、DX推進部署の構成に必要な事項や、組織作りのポイントを解説していきます。
これからDX推進部署を設置するという企業のみならず、現在DXが滞ってしまっているという場合も、下記を見直し・検討してみることをおすすめします。
IT人材の確保、育成とそれらに関する権限
上記、DX推進組織の3つのタイプでも繰り返し紹介した通り、DX推進部署にはデジタルに精通したIT人材の存在が必要不可欠です。
システム導入や運用、DX施策を実行に移すためには、デジタルテクノロジーに関する知識と、デジタルツールに関する実践的なスキルを備えた人材が求められます。
また「事業部門拡張型」の章でも先述した通り、企業のDX推進を実現するためには、上層部や当該部署の人間だけでなく、各部門のメンバーに理解を得て、また彼らを積極的に巻き込みながら課題を突破していく必要があります。
デジタルテクノロジーへの知見が高い人材やマネジメントができる人材をを確保するためには、DX推進部署が人事や人材育成(教育)の権限を持っている必要があると言えるでしょう。
さらに、社外の人材をDX推進部門のメンバーとして雇用する可能性もあるため、予算についてもある程度権限が必要です。
ロードマップ策定
DX推進に取り組む上では、どのようにDXを進めていくのかを決定する「ロードマップ」の策定と組織内での共有が重要な役割を果たします。
DX推進に成功した企業事例の多くは、ビジネスとITシステムを一体的に捉えているケースが非常に多いです、
また、デジタルテクノロジーを導入することによる変化が自社にどのような影響や効果をもたらすのかを踏まえた上で、デジタル化された経営ビジョンやDX推進のためのロードマップを策定しています。
ロードマップ策定は、価値創造ストーリーを組み立てていく上で、最も重要な項目の一つと言っても過言ではないでしょう。
このロードマップの策定には、以下2つの方法があります。
- 6つのステップに沿ってロードマップを策定する
- 「DX加速シナリオ」に沿ってロードマップを策定する
上記、2つのロードマップ策定方法については、下記記事で詳しく紹介しています。
ロードマップによって、日々変化する状況への柔軟な対応を含めた上で企業のDX推進に取り組んでいくことができますので、ビジョンや戦略を明確化した上で、全社的なDX推進を成功に導くべくロードマップを作成してみてください。
費用対効果の予想と施策実施後の確認
施策を考案したら、その取り組みにかかるコストと、それによって得られる効果を具体化するようにしましょう。
費用対効果は事前にある程度予想できるものですので、効果を具体的にイメージすることができないのであれば、投資先を見直すべきだと考えられます。
また施策を実施したら必ず効果測定を行うことをおすすめします。
効果を数値化することで、コストをかけるべきシステムやサービス、また未来の施策の明確化が可能となるでしょう。
経営陣のコミットメント
全社的なDX推進の実現には経営陣のコミットも重要になってきます。
経営陣や本部は、システムの導入や利用をする実作業者ではないものの、導入を進めていくために欠かせない存在であることに間違いありません。
決定権のある経営陣がDX推進による指針を明らかにしていかなければ、現場はデジタルテクノロジーを使用することすらできません。
DX推進を効率化し、またビジョンを実現してくためには、組織全体の改革や新しいテクノロジーを受け入れるための企業文化の変革が求められます。
そのため、現場のみならず、経営陣も巻き込んだDX推進を意識しましょう。
DX推進の専門部署を構成!その後、DX化に成功した事例を紹介
ここでは、DX推進の専門部署を構成し、その後DXを実現した企業事例を紹介していきます。
自社のDX推進のプロセスと参考としてぜひご活用ください。
SGホールディングスグループ
人手不足とEコマースの普及による需要拡大により、DX戦略を重要視しているSGホールディングスグループでは、下記のように部署ごとの役割分担型でDX推進に取り組んでいます。
- SGホールディングス株式会社がDX戦略を策定
- 事業会社が施策を企画
- グループ内のITを統括するSGシステム株式会社が仕組みを構築
SGホールディングスグループは、この役割分担型を採用したことでシステムの開発・保守を内製化することに成功。
「サービスの強化」「業務の効率化」「デジタル基盤の進化」の3つをDX推進施策として掲げ、現在もDXに取り組んでいます。
また、上記の「サービスの強化」の事例として、佐川急便株式会社と協力会社のネットワークをデータベース化したことも挙げられます。
これにより、荷物と車をマッチングさせる物流プラットフォームの構築が実現されました。
さらに、AIを活用することによって手書き伝票をデジタル化。業務の効率化、また正確性の向上に貢献しています。
また、佐川急便の営業部門にはSGシステムのアジャイル開発の専門部署が常駐しています。
こちらの部署では、システム構築やアプリ開発が活発が進められています。
富士フイルムホールディングス株式会社
富士フイルムホールディングス株式会社のグループ事業会社では、下記4領域の事業を展開しています。
- ヘルスヘア
医療機器や医薬品などを展開 - マテリアルズ
各種産業向けの高機能材料などを製造 - ビジネスイノベーション
オフィス・ビジネスソリューションを展開 - イメージング
写真や光学電子映像関連の製品・サービスを提供
富士フイルムホールディングスの事例では、なんと各事業部にDX戦略を策定するDX推進チームを構築しています。
チーム統括者が主導してDX戦略を実行に移す体制のため、部門ごと事業横断的にICT・経営企画・人事などの関連部門や外部専門家がDX推進をサポートすることができます。
また、「DX戦略会議」を開催し、CEOを議長、CDO(Chief Digital Officer)を副議長として、富士フイルムホールディングスグループ全体のDX推進に対する意思決定を行っています。
これにより、全社的な意思の疎通、施策やビジョン、ロードマップの共有が可能となっているはずです。
さらに、クライアント企業に対するDX推進支援サービスも提供中。
社内でのDX推進経験をもとにした知見と、クライアントの業界への理解を融合させることにより、デジタルテクノロジーを駆使したサービスとなっています。
記事まとめ
この記事では、「DX推進部署」の必要性や、DX推進の専門部署の構成、組織作りのポイント、部署を構築した事例について解説しました。
DX推進には、単なる業務のデジタル化や、システムの導入のみならず、レガシーシステムからの脱却や企業風土や文化の変革も含まれます。
SGホールディングスグループや富士フイルムホールディングス株式会社の事例からも見て取れるように、全社レベル・部門を横断する形でDX推進を実施し、競争優位性を確立するためにはDX推進部署の設立をおすすめします。
この記事を参考に、DX推進部署を立ち上げてみてはいかがでしょうか。