コロナ禍を契機に、DX推進の必要性は高まりつつあります。デジタル化によって社会のニーズに対応し、収益性を高めることは、すべての企業が直面する重大な課題です。
この記事では、「DX推進とは」をテーマに、定義や認定制度、メリット・課題などを解説します。DX推進の成功事例も紹介するのでぜひ参考にしてください。
DX推進とは
DX推進とは、デジタル化によって企業の経営や業務、組織のあり方を変革していくことを指します。DXは「デジタル・トランスフォーメーション」の略語です。
企業が行うDXの対象は、商品やサービス、ビジネスモデルはもちろん、組織作りやプロセス、企業文化、風土など多岐にわたります。
企業活動に関するあらゆることにデータとデジタル技術を適用し、競争優位性や生産性を高めていくのが企業にとってのDX推進です。
なお、経済産業省はDX推進の目的を「他の会社よりも儲かる仕組みをつくること」と定義しています。
参考:経済産業省 ミラサポplus「デジタル・トランスフォーメーション」DXとは何か? IT化とはどこが違うのか?」
DX推進とIT化の違いとは
DX推進とIT化に明確な違いはありません。どちらも「デジタル化」と言い換えられます。
強いて違いを挙げるなら、DX推進ではデータやデジタル技術による企業の「変革(トランスフォーメーション)」が強調されます。
DXを推進する場合、単にITツールを導入するだけでなく、業務フローやビジネスモデルなどのあり方を改革することが必要です。
一方、IT化という言葉を使う場合、ITツールを導入して業務を効率化することが主眼となります。
例えば、業務のやり方は変えず、新しい会計ソフトを入れるだけでも立派なIT化です。他方、DX推進と言う場合は、会計ソフトの導入に合わせて人員配置を見直したり、経理業務のフローを変えたりします。
DXの知名度が高まる背景
DX推進の注目度が高まっている背景には、以下のような事情があります。
企業が直面する「2025年の崖」
経済産業省は2018年9月に資料「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」を公表しました。2025年の崖とは、企業がDX推進に取り組まなかった場合、2025年を境に収益性が大きく低下することを示唆する比喩表現です。
SAP ERPやWindows 7を筆頭に、主要な既存システムの多くが2025年までにサポートを終了します。またITシステムの開発や運用保守に携わるIT人材は、2025年までに約43万人不足する試算です。
さらに既存システムは性能上の欠陥から複雑化・ブラックボックス化が進んでいます。そのため、やがて既存システムではデータを活用しきれず、市場の変化に対応できないときがやってくる可能性が高いです。
以上の課題をDX推進によって克服できなければ、2025年の崖を機に、年間最大12兆円の経済損失が出ると考えられています。
参考:経済産業省「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」
デジタルガバナンス・コードの策定
経済産業省は、DX推進にかかわる経営者の対応をまとめた「デジタルガバナンス・コード(旧DX推進ガイドライン)」を公表しています。
デジタルガバナンス・コードには、DX推進に関する基本的事項(考え方や戦略等)や方向性、事例などが載っています。
また「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」という資料もあります。こちらではDXの進め方やデジタルガバナンス・コードの実践事例などを知ることが可能です。
以上のように政府がDX推進について積極的な情報発信を行なっていることも、DXの注目度が高まりつつある要因と考えられます。
コロナ禍を契機とするDXの遅れの認識
コロナ禍は、多くの企業にDX推進の遅れを気づかせるきっかけになりました。「新しい生活様式」に対応すべく、社会全体が半ば強制されるようにテレワークの導入をはじめとするDX推進を始めました。
事実、コロナ禍を契機としてDX推進に取り組むようになった企業は、全体の75.5%に上ります。大企業では9割近く、中小企業や小規模事業者でも7割前後の事業者がデジタル施策を始めています。
DX推進の取り組み内容として主流なのが「オンライン会議設備の導入」や「テレワークなどリモート設備導入」。そのほか、ペーパーレス化やSNSでの情報発信、電子印鑑の導入なども盛んに行われています。
参考:国土交通省 国土交通白書2021「第4節 デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れと成長の停滞」
DX推進のメリットとは
企業がDX推進を行うことには、以下のようなメリットがあります。
生産性が向上して儲けが増える
DX推進とは生産性を向上させて儲けを増やす取り組みです。
そのため、DX推進が成功することは、企業の収益性が高まることを意味します。
どのように収益性が高まるかですが、大きな要因はデジタル化による業務の効率化です。より短い時間で、高い精度で業務を遂行できるようになるため、時間あたりの儲けが増えます。
またより少ない人員で業務を回せるようになることから、人員をほかに再配置したり、人件費を削減したりすることでも利益は上がります。
ミスが減って企業の社会的信用が増す
DX推進でITツールを導入すれば、ヒューマンエラーを減らすことが可能です。
人為的なミスが減れば、業務の正確さが向上するため、企業の信用度アップにもつながります。
またデジタル施策によって業務を効率化すれば、長時間労働の是正をはじめとする働き方改革も実現できます。そのため、労働基準法等を遵守し、社員を大切にしているという観点でも、組織の評価が上がるでしょう。
緊急事態の備えにもなる
DX推進は、BCP(事業継続計画)の策定にも役立ちます。
BCPとは、自然災害や大火災、テロ攻撃といった緊急事態の損害を最小限にとどめ、事業の早期復旧ができるよう取り決める計画のことです。
DX推進は、リモート化やクラウド化、ペーパーレス化などによるリスク分散を可能にします。例えば、災害でオフィスがやられても、リモートワークをしていた人員やクラウドに保存したデータなどは守られます。
BCP施策の一環として、緊急事態から会社を守るためにDX推進に取り組むのも有意義です。
参考:中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針「1.1 BCP(事業継続計画)とは」
新しいビジネスの開発にもつながる
データやデジタル技術を新たに取り入れれば、革新的な商品やサービス、ビジネスモデルを開発できるチャンスが生まれます。
例えば、既存のサービスにAI技術を組み合わせれば、効率性や正確性などの観点で、よりユーザビリティが向上するかもしれません。
またDX推進によって業務の効率化が達成されれば、余った人員を新規事業に配置することも可能です。
2025年の崖を回避できる
「レガシーシステム」と呼ばれる従来型のITシステムを使い続けていると、2025年の崖を境に収益性が大きく低下する可能性があります。
ITシステムの運用にかかるコストがかさむほか、DX推進を行う他企業に比べてデータやデジタル技術の活用という点で競争力が低下します。
一方、2025年までにDX推進を実現できれば、2025年の崖を回避するとともに、生産性を向上させることが可能です。以上より、企業にとってDX推進のメリットは大きく、逆にデジタル施策を行わないデメリットもまた大きいと言えるでしょう。
DX推進の課題・デメリット
企業はDX推進を実行する際、以下のような課題・デメリットに直面する可能性があります。
目標・計画の策定に専門性を要する
DX推進を成功させるには、明確な目標や計画を設定する必要があります。目標や計画の策定には、経営的な知識に加え、ITに関する理解やリテラシーも求められます。
経営者がデジタル技術に疎ければ、どのようにDXを進めて良いか、なかなか決められない場合もあるでしょう。
IT知識に自信がない場合は、ITパスポートの資格を取得するなど、これを機会に勉強するのも有意義です。
システムの移行にコストがかかる
DX推進を実現するには、レガシーシステムを廃止し、新しいITシステムを導入しなければなりません。そのため、既存システムの処分や新規システムの選定、開発などに一定のコストがかかります。
とはいえ、DX推進をしなければ2025年の崖に直面するため、コストがかかってもデジタル化は実行すべきです。資金繰りについては補助金も有効活用すると良いでしょう。
IT人材を確保するのが難しい
日本のIT人材はこれから2030年にかけて最大で約79万人不足すると言われています。そのため、DX推進に携わる人材確保に苦労する企業も多いでしょう。
またシステムの運用・保守等を外注するにしても、IT人材の需要過多によって経費が高騰する恐れもあります。
対処法としては、早めにデジタル化を実現する、社内でIT人材を育成するといったことが挙げられます。
参考:経済産業省「参考資料(IT人材育成の状況等について)」
社員の理解を得られるかも課題に
DX推進の影響を大きく受けるのは、デジタル化する現場の社員です。デジタルネイティブ以降の世代であれば、ITツールもすぐに使いこなせるでしょうが、それ以前の世代にとっては難しい可能性もあります。
中高年の社員が多い組織では、デジタル化が現場のストレスとなり、かえって生産性が低下することも考えられます。そのため、DX推進は、社員のITリテラシーのレベルに合わせて行うことが重要です。
DX認定制度とは
DX認定制度とは、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に遵守してDX推進を行う企業を、国が認定する仕組みです。独立行政法人情報処理推進機能(IPA)が「DX認定制度事務局」となり、認定審査を行います。
審査で認められれば、DX推進の「認定事業者」としてIPAのホームページで社名が公表されます。またホームページや名刺等で、DX認定事業者のロゴマークを利用することも可能です。
会社の社会的信用度を高めることにつながるため、DX推進に取り組む際は、ぜひDX認定事業者を目指してみてください。
参考:経済産業省「DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)」
DXの成功事例
以下では、企業によるDX推進の成功事例を紹介します。下記を参考に自社でできるデジタル施策のイメージを膨らませてみましょう。
事例1:Amazonの「ワンクリック特許」
Amazonの「ワンクリック特許」は、経済産業省がDX推進の世界的な成功事例として挙げるビジネスモデルです。
ワンクリック特許とは、2回目以降の注文の際に、一度のクリックで手続きを完了できる仕組み。
Amazon.comでは、2回目以上同じ商品を注文する際、注文内容の確認や住所・支払い方法の入力などを省略できます。Amazonはこのビジネスモデルに対して各国で特許を出願し、日本では2012年3月に成立しています(現在は失効)。
Amazonは、既存のECサイトに新しいITシステム(ワンクリック特許)を導入することで、ビジネスモデルを変革しました。そしてこの変革はAmazon.comの収益性向上に大きく寄与したのです。
このようにデジタル技術の導入による変革および収益性アップを伴うものが、DX推進の典型と言えるでしょう。
参考:経済産業省 ミラサポplus「デジタル・トランスフォーメーション』DXとは何か? IT化とはどこが違うのか?」, 「デジタル・トランスフォーメーション」DXとは何か? IT化とはどこが違うのか?」
事例2:熱産ヒート株式会社・監視業務のAI化
熱処理炉等の設計から施工、補修まで一連を請け負う熱産ヒート株式会社は、DX推進で業務の一部をAI化しました。
従来、温度監視の業務では、正確な温度調整のために熟練の技術者に負担が集中し、長時間労働が問題となっていました。
この課題を解決すべく、同社は鋼管加熱遠隔自動監視操作システムを導入。記録作業を自動化し、データ収集機能の構築および機械学習によるAI制御化も実現しました。
この事例では、ITシステムの導入によって業務の効率化だけでなく、働き方改革にも成功しています。このように組織の変革を伴うデジタル施策は、IT化ではなくDX推進と呼ぶほうが適切です。
参考:経済産業省 九州経済産業局「DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む企業事例のご紹介」
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DX推進とは、デジタル化によって企業の組織構成やビジネスモデルなどを変革し、生産性を向上させることです。DX推進に成功すれば、収益性がアップするほか、企業の信用やリスクマネジメントにも好影響があります。
DX推進の課題としては、導入コストや人員確保、社員の理解などが挙げられます。とはいえ、競合ひいては社会全体から取り残されないためにも、多かれ少なかれ、デジタル施策は必要です。
DX推進の流れにうまく乗り、効果的なデジタル化にとってより良い経営を目指しましょう。