2022年6月、経済産業省は優れたデジタル施策を実現する「DX銘柄2022」「DX注目企業2022」を発表。翌年3月には中堅・中小企業向けの「DXセレクション2023」の表彰も行われました。
この記事では、こうしたDX推進の優良企業によるデジタル化の取り組み事例を紹介します。先例に学び、自社にとってより良いデジタル戦略・デジタル施策を考えましょう。
経済産業省に選ばれたDX企業の一覧
以下では、経済産業省からDX推進の優良企業に選ばれた会社を一覧で紹介します。
各社の具体的な取り組み事例については、後述する「DX推進に成功した会社の取り組み事例」をご覧ください。経済産業省が公開する「選定企業レポート」でもご確認いただけます。
「DXグランプリ2022」に選ばれた会社
東京証券取引所の上場企業のうち、DX推進の観点で最も優れた会社を選定する仕組みです。2022年度の選定では、以下2つの企業がグランプリに選ばれました。
証券コードについては、DX推進やグランプリに選ばれたことと、株価の値動きに連関があるかを検証するのにも活用できます。
証券コード | 企業名 | 業種 |
---|---|---|
4519 | 中外製薬株式会社 | 医薬品 |
8174 | 日本瓦斯株式会社 | 小売業 |
出典:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022」
「DX銘柄2022」に選ばれた会社
DX銘柄とは、東京証券取引所の上場企業から、DX推進によって優れた成果をあげる会社を選定する制度です。ITツールの導入やデータの利活用によって、ビジネスモデルや経営全体の変革に挑戦している企業が選ばれます。
DX銘柄の評価項目となるのは、下記の6点です。おおむねデジタルガバナンスコード(旧DX推進ガイドライン)の内容を踏襲したものになっています。
- 経営ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略
- -①戦略実現のための組織・制度等
- -②戦略実現のためのデジタル技術の活用・情報システム
- 成果と重要な成果指標の共有
出典:経済産業省「『DX銘柄2022』『DX注目企業2022』を選定しました!」
2022年度には、下記の企業がDX銘柄に選ばれました。
証券コード | 企業名 | 業種 |
---|---|---|
1803 | 清水建設株式会社 | 建設業 |
2587 | サントリー食品インターナショナル株式会社 | 食料品 |
2802 | 味の素株式会社 | 食料品 |
3407 | 旭化成株式会社 | 化学 |
4901 | 富士フイルムホールディングス株式会社 | 化学 |
5020 | ENEOSホールディングス株式会社 | 石油・石炭製品 |
5108 | 株式会社ブリヂストン | ゴム製品 |
5201 | AGC株式会社 | ガラス・土石製品 |
5938 | 株式会社LIXIL | 金属製品 |
6301 | 株式会社小松製作所 | 機械 |
7013 | 株式会社IHI | 機械 |
6501 | 株式会社日立製作所 | 電気機器 |
7752 | 株式会社リコー | 電気機器 |
7732 | 株式会社トプコン | 精密機器 |
7911 | 凸版印刷株式会社 | その他製品 |
7936 | 株式会社アシックス | その他製品 |
9086 | 株式会社日立物流 | 陸運業 |
9143 | SGホールディングス株式会社 | 陸運業 |
9104 | 株式会社商船三井 | 海運業 |
9202 | ANAホールディングス株式会社 | 空運業 |
9433 | KDDI株式会社 | 情報・通信業 |
9434 | ソフトバンク株式会社 | 情報・通信業 |
9830 | トラスコ中山株式会社 | 卸売業 |
8354 | 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ | 銀行業 |
8616 | 東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 | 証券、商品先物取引業 |
7326 | SBIインシュアランスグループ株式会社 | 保険業 |
8766 | 東京海上ホールディングス株式会社 | 保険業 |
8439 | 東京センチュリー株式会社 | その他金融業 |
3491 | 株式会社GA technologies | 不動産業 |
8801 | 三井不動産株式会社 | 不動産業 |
9755 | 応用地質株式会社 | サービス業 |
出典:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022」
「DX注目企業2022」に選ばれた会社
DX注目企業とは、DX銘柄には選定されなかったものの、企業価値の向上という観点で、注目すべきDX推進の取り組みを行っている会社です。2022年度には以下の企業が選ばれました。
証券コード | 企業名 | 業種 |
---|---|---|
1417 | 株式会社ミライト・ホールディングス | 建設業 |
2503 | キリンホールディングス株式会社 | 食料品 |
3591 | 株式会社ワコールホールディングス | 繊維製品 |
6305 | 日立建機株式会社 | 機械 |
6361 | 株式会社荏原製作所 | 機械 |
6701 | 日本電気株式会社 | 電気機器 |
6841 | 横河電機株式会社 | 電気機器 |
7912 | 大日本印刷株式会社 | その他製品 |
9101 | 日本郵船株式会社 | 海運業 |
9233 | アジア航測株式会社 | 空運業 |
8056 | BIPROGY株式会社 | 情報・通信業 |
9613 | 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ | 情報・通信業 |
2678 | アスクル株式会社 | 小売業 |
7199 | プレミアグループ株式会社 | その他金融業 |
9715 | トランス・コスモス株式会社 | サービス業 |
出典:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022」
「DXセレクション 2023」に選ばれた会社
DXセレクションは、中堅・中小企業等に絞って、DX推進の優良企業を選定する仕組みです。DX銘柄の中小企業版と理解すれば良いでしょう。「中堅・中小企業等のDX優良事例選定」とも呼ばれます。
DX銘柄は上場企業(大企業や大手企業)に関することなので、取り組み事例の中に、中小企業には実現が現実的でない内容が含まれることもあります。
その点、DXセレクションの優良事例は、中小企業が成功したDX推進の取り組みなので、あらゆる会社が参考にできるはずです。
なお、2023年度の表彰では、下記の会社が選定企業となりました。本社所在地を明記しているので、近隣の会社があれば、見学等の交流の機会を設け、DX推進の取り組みを直に学ぶのも良いでしょう。
グランプリ
推薦ラボ | 企業名 | 本社所在地 |
---|---|---|
岡山県IoT推進ラボ | 株式会社フジワラテクノアート | 岡山県 |
準グランプリ
推薦ラボ | 企業名 | 本店所在地 |
---|---|---|
群馬県IoT・AI推進研究会 | 株式会社土屋合成 | 群馬県 |
北九州市IoT推進ラボ | グランド印刷株式会社 | 福岡県 |
審査員特別賞
推薦ラボ | 企業名 | 本店所在地 |
---|---|---|
北九州市IoT推進ラボ | 有限会社ゼムケンサービス | 福岡県 |
優良事例選定
推薦ラボ | 企業名 | 本店所在地 |
---|---|---|
札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアム | 池田食品株式会社 | 北海道 |
秋田県IoT推進ラボ | 株式会社田代製作所 | 秋田県 |
秋田県IoT推進ラボ | 有限会社小西タイヤ | 秋田県 |
山形県IoT推進ラボ | 三井屋工業株式会社 | 愛知県 |
山形県IoT推進ラボ | 有限会社舟形マッシュルーム | 山形県 |
群馬県IoT・AI推進研究会 | スバル工業株式会社 | 群馬県 |
長岡市デジタル推進ラボ | テラノ精工株式会社 | 新潟県 |
柏崎市IoT推進ラボ | 日本メッキ工業株式会社 | 新潟県 |
富山県IoT推進ラボ | ケーシーアイ・ワープニット株式会社 | 富山県 |
長野県IoT推進ラボ | 株式会社共進 | 長野県 |
静岡県IoT推進ラボ | 宮川工業株式会社 | 静岡県 |
大阪市IoT推進ラボ | 株式会社ブリッジ・ソリューション | 大阪府 |
大阪市IoT推進ラボ | 株式会社Mountain | 大阪府 |
岡山県IoT推進ラボ | 両備ホールディングス株式会社 | 岡山県 |
佐賀県IoT推進ラボ | 株式会社ソロン | 佐賀県 |
佐賀県IoT推進ラボ | 株式会社中野建設 | 佐賀県 |
出典:経済産業省「DX Selection 2023」
DX推進で選ばれる会社になるには
DX銘柄やDX注目企業、DXセレクションに選ばれるには、前提としてDX推進の取り組みを成功させる必要があります。
またDX銘柄の場合、選定の対象となるには、東京証券取引所への上場とアンケート調査への回答が必須です。DXセレクションに関しては、地方版IoT推進ラボの取組に参画することが条件となります。詳細は経済産業省の公式サイトでご確認ください。
なお、上記の選定制度よりも間口が広い仕組みとして、「DX認定制度」というものもあります。IPA(情報処理推進機構)に申請し、審査に通れば、DX認定事業者として経済産業省から公表されるという制度です。
セレクションに選ばれるよりも実現可能性が高いので、DX推進の目標としてぜひご活用ください。
DX推進に成功した会社の取り組み事例6選
以下では、DX銘柄やDXセレクションの企業の中から、各社のDX推進に関する取り組み事例を紹介します。
自社のデジタル戦略・デジタル施策の方向性や方法を考える材料として活用しましょう。
1. 中外製薬株式会社(DXグランプリ2022, 医薬品)
中外製薬は、DX推進に向けたデジタル基盤の強化に力を入れています。
代表的な取り組みは、DX推進に関する社員のアイデアを具現化するための「Digital Innovation Lab」です。過去に400件以上のアイデアの中から10件以上を実現しています。
そのほか、データサイエンティスト100名以上の育成や、クラウド基盤の導入による大幅なコストカット(1/11まで削減)にも成功しています。
2. 日本瓦斯株式会社(DXグランプリ2022, 小売業)
日本瓦斯は、デジタルの活用により、「エネルギーソリューション」という新しいビジネスモデルを創設しました。エネルギーの最適利用の仕組みを包括的に提供するという内容です。
具体的には、従来、競争優位性を確保するために使っていた独自の高効率な仕組みを商品化。プラットフォームとして広く他社へ提供します。またAI技術を活用して発電と電気の需要を最適にバランスさせる「スマートハウス」の実現にも力を入れています。
同社はツールの導入にとどまらず、デジタルを活用した組織や人材、評価制度、企業文化・風土などの全社的な変革に取り組んでいます。この点も、同社がDXグランプリに選定されたポイントでしょう。
3. サントリー食品インターナショナル株式会社(DX銘柄2022, 食料品)
サントリー食品インターナショナルは、DX推進の先進的な取り組みを集約した新工場「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」を竣工しました。
この工場では、高度情報化モデルの構築・導入より、従来表計算ソフトや紙を使用していた品質管理・生産管理のデジタル化を実現。そのほか、データやデジタル技術を活用した環境保全・循環型社会の形成、地域活性化などにも取り組んでいます。
加えて、自動販売機事業でもAI技術を活用してDXを推進。業務効率化と顧客のニーズに合わせた品揃えモデルの確立に成功しました。
なお、下記からは中堅・中小企業の取り組み事例です。あらゆる企業にとって参考になる事柄が含まれているはずなのでぜひ参考にしてください。
4. 株式会社フジワラテクノアート(DXセレクション2023グランプリ, 機械)
醤油や日本酒などの醸造機械等を作るフジワラテクノアートは、部門横断の委員会を立ち上げて自社主導のDX推進に挑戦。スキルの自主的な習得や資格試験の挑戦なども経て、システム構築や運用をやり切り、大きな成果を上げました。
具体的には業務効率化やヒューマンエラーの削減、納期短縮、ペーパーレス化などを実現しています。またデジタル人材の育成・教育にも力を入れ、社員のスキルアップやデジタル人材増加などに成功しました。
さらにレガシーシステムを刷新したことにより、情報セキュリティも高まったといいます。
5. 株式会社土屋合成(DXセレクション2023準グランプリ, 製造業)
土屋合成は、DX推進によって生産性の向上に成功したプラスチック製品製造業の企業です。
部門を問わず、データをいつでも全社的に活用できるようなITシステムの仕組みを導入することで業務を効率化。売上高がコロナ前の約120%となり、過去最高益を記録しました。
また業務効率化で余ったリソースを新製品の開発業務に充てることで、より付加価値の高い製品を生み出せるようになったといいます。
6. グランド印刷株式会社(DXセレクション2023準グランプリ, 印刷業)
グランド印刷は、DX推進によって新しいビジネスモデルの創出や業務効率化、働き方改革など、多様な成果を実現した企業です。
デジタルの活用によって既存業務の効率化・省力化を実現することで、余った工数を生かして年2〜3個の新規事業を育てることに成功。また子育てをしながら働ける環境を整備したことで、女性従業員が全体の75%になりました。
さらにDX推進によってできた新事業が既存事業をカバーすることで、コロナ禍でも3年連続で過去最高売上を更新しています。
DX企業の良い取り組みを自社に取り入れよう!
DX銘柄やDXセレクションの取り組み事例は、より良いDX推進に向けたアイデアを得る良い機会です。
良いと思った取り組みについては、ぜひ積極的に自社にも取り入れてみましょう。
DX推進に意欲的に取り組み、将来的にはDXセレクションやDX認定事業者に選定させることを目指すのもおすすめです。